ドリーム小説
宵闇 喜八郎9
「さん。」
呼ばれて振り向けば、彼女がいた。
驚くよりも早く近づいてきた彼女はとん、との胸を一度だけ軽く叩いた。
「ずるい、ですわ」
あの時と同じ言葉を、あのときよりもずっと悲しげに告げられて。
どうしようもなく悲しくなった。
「あなたはやっぱり喜八郎さんに思われていて。」
「羨ましいですわ。」
でも再び上がった顔はしょうがないなあという諦めがにじんでいて。
そこではたと気づく。
今彼女はなんといった?
思っていると言わなかったか?
どくんと高鳴った胸をそのままにじっと結縁を見つめる。
ふいとそっぽを向かれた。
そんな仕草もいちいち可愛い。
喜八郎がを思うだ何て嘘だろう、としか思えなくて。
「・・・喜八郎さんは私と一緒にいるのに他の人への贈り物を選ぶのですわよ。」
「わ・・・、喜八郎だねそれ。でも、俺のって決まったわけじゃ・・・」
「あなたと私以外にあの人に近しい異性がいて?」
それは確かになくて。
じゃあ、もしかして、この想いを伝えてみても怒られない?
もやもやもやもや悩むのはもう嫌になってきていて。
ならば伝えてしまおうかと何度も思った。
でもそのたびに拒否されることを考えると怖くて。
今なら、許される?
「さん。今度くのいち教室に来てください。」
「へ?」
「女としての知識をもう少し知ってください。でなければ、これから先生きて行くのに困難が生じますから。」
そっぽを向きながらもごもごとそう言う彼女。
ああ、なんて優しくて女の子らしくて、可愛らしい。
それなのに喜八郎は___
「さっさとお行きなさい」
むすりと口元を手で覆って言葉を紡ぐ。
「正門で今どこかの誰かさんと交戦中ですから。」
「へ、交戦中・・・?」
それに思っていた思いがすべて吹っ飛んだ。
「え、ちょ、だれと?!」
「知りません。ご自分の目でお確かめください。」
そのまま背中を押しだされて、それに抵抗することもなく体は動き出したのだった。
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