ドリーム小説
宵闇 三郎3
気がついた
もうこの場所にいられるのはわずかだと
いつ、 『いつか』 が来るかわからない
この安穏とした場所にもいつ何が起こるかわからないのだと。
ならば全てを記憶に焼きつけなければ。
後輩の顔も先輩の顔も同級生の顔も
可愛い一つ下のあの子のことも。
いずれ来る別れの時のために
人ではなくなってしまう私のために
記憶が 廃れても
心が 歪んでも
私が 壊れても
大事な彼らを
大切なあの子たちを
愛しいあいつを
思い出すことができるように
深く深く記憶に読み込ませなければ
あの襲撃は思いのほか私にの思考に変化をもたらした。
あの日のようにいつ何があるかわからない。
もしかしたら明日
あの襲撃のように襲われて命を落として
この世界から消えてしまうかもしれない。
そう思うと恐怖が襲った。
いつか来るとわかっていても今であるとは思っていなかった。
だからこそ、この技術を使って。
記憶にすりこもう。
意識しなくてもできるくらいに。
珍しくまともに学園長からお饅頭をもらったので委員会で配ればじとりとした水色二つ。
弁解、ではないが言ってもなかなか認めてもらえず。
は笑ってるだけでさてさて、どう言えば分ってもらえるだろうか
それは勘右衛門によって無事成功したのだが。
お茶を配る。
嬉しげに受け取る水色。
私にも差し出してくれて。
の顔は柔らかく微笑みを形づくる。
とても眩しい。
ああ、この表情を覚えていたい。
そう思い顔をへと変化させる。
の顔はなんてことない普通の顔だというのに、なぜかまねることが難しい。
それはこの世界のものではないという理由で片付けられても納得はできない。
私はという存在を一つでも多く私の中に刻みつけたいというのに。
変化させた顔、驚くの顔が見れると思ったのに、なぜかその表情は困惑で、何処となく泣きそうで。
驚いた。
こんな表情は何度か見たことはあるが自分に向かってされたのは初めてで。
ああ、別れなくてはいけないとわかったのに、そう思ったのそばから新たな発見をする。
それはとても嬉しくて同時に怖い。
こんなにも自分は弱かったのかと自嘲がもれた。
八が来てしかたないなと腰を上げて庄と彦と三人で庭に降り立つ。
でも後ろからきているはずの二つの気配は止まったままで
ちらりと見たそこではと勘右衛門が何かを話しているところで。
ちくり
小さく音を立てた胸を笑いの底に押し込めた。
さあ、記憶せよ記憶せよ
まねよまねよ
それが今の私に必要なもの。
いつか来るその時のためにたくさんの保険を作っておかなくては。
「三郎先輩おかしいですね。」
委員会中の小さな時間。
後輩がじっと私を見てくるものだからどうした?と問いかければ真顔でそんな言葉。
「おかしいって・・・」
「確かにどこか変です。」
それの真意を三郎とすればもう一人の後輩も同じことを言ってきて。
「三郎先輩だけじゃなくて、学園中がぴりぴりしてます。」
あの襲撃の日から
変に気を張ってるみたいです。
そんなのつかれます・
この二人の観察眼には本当に感心するばかりである。
そして思い出す雷蔵たちにも同じようなことを言われたなあと。
「先輩、僕たちじゃ力になれないかもしれませんけど、話を聞くことはできます。」
「僕たちにできることなら言ってください、お手伝い、します!」
ふにゃあり
柔らかな笑みに心がゆるりと解されていく
「ありがとな、庄、彦」
「ちょ、僕の顔、って違う誰の顔ですか!?」
「眉は僕。目は彦。口は勘右衛門先輩。髪は先輩ですか。」
「庄左衛門!冷静だなあおい!」
「正解だ庄!」
「三郎先輩イタイイタイ!」
「ちょっと腕の力が強いです。」
「しょうざえも〜ん!!」
色々とり交ぜた変装をすれば面白いほど反応してくれる彦。
反対に至極真面目な庄。
可愛くて嬉しくて抱きしめれば余計に声を上げる彦。
やっぱり冷静な庄。
こんな時間がいとおしいと思った。
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