ドリーム小説
宵闇 三郎5
「三郎先輩っ!」
探して探して。
でもなかなか見つからなくて。
ようやっと見つけた時、日は暮れきっていた。
場所は正門近く。
準備を終えてそろそろ出発しようかという状態だった。
「三郎先輩」
「?どうかしたのか?」
名前を呼んで近づいていけば目を眇めてにやりと笑ういつもの人。
「お使いに行くと聞いたので、お見送りを、と。」
それは本当のことだったのだけれども、今伝えたいことはそんなことではなくて。
一人でのお使い。
さらにはこの時間からの出発。
六年生でなく三郎に回された理由。
それらはつまり、難しい任務だということ。
三郎の実力は最上級生と並ぶほど。
実習や実践ではその能力はさらに跳ね上がる。
だからこそ、の不安は大きかった。
「気をつけて行ってきてください。」
まっすぐ目を見つめて言えばふ、と笑う顔。
ああと頷いての頭に手をやってくしゃりと撫でた。
そして___
「っ、いつもの顔でいてください!俺になんかならないで!」
手で覆われた顔は一瞬のうちにへと姿を変えた時、は自分でも理解する前に叫んでいた。
「俺になんか、ならないで、くださいっ、」
「なあ、。なんでだ?」
頭に乗せられたままの手をぎゅっとつかんで俯いたままつぶやけば上から降ってきた声。
それは小さく小さく、いつもとは違うもので。
「いつものままの、先輩がいいんです」
顔を上げないままそう返せばするり手の中から三郎の腕が抜かれた。
慌てて見上げればそこには表情のない雷蔵の顔。
否
三郎の仮面
「いつもの私?それはいったいどんなものだ?」
淡々と述べられる言葉は抑揚もなく
「この顔がいつもの私?本当の私ではないというのに?」
響く低い声は恐怖を招く。
「三郎せんぱ、」
「いつもってなに?」
無表情がここまでの感情を表すものだとは知らなかった。
「なあ、」
ここまで怒りを表すものだとは。
答えなければと思った
「いつもの先輩は」
まっすぐに目を見て
「後輩たちをからかって」
そらさずに
「不破先輩たちを怒らせて」
自分の本当の想いを
「先輩たちに追いかけられて」
嘘偽りなく
「不敵に笑って」
感情のない眼が
「俺の顔にはならなくて」
色を変えた
「俺が好きな人です。」
「ふざけるな」
どん、という音とともに突き放されたからだ。
近かった距離が離れた。
「それのなにひとつわたしではないかもしれないというのに」
今まで何の感情もなかった瞳が揺れて揺れて
「そんな私を好むというのかは」
否定するように
「嘘をつくな」
嘲笑がもらされた。
「そんな感情、偽物だ」
全てが否定される言葉は思っていたよりもずっと激しく心に響いた
「お前は一時の思い違いに流されているだけだ」
それに否定の言葉を叫んでも取り合ってはもらえなくて
「冷静になって考えろ。真実が見える。」
頭に熱が上がって気がつけば叫んでいた。
「俺は、俺は三郎先輩が好きなんです!この気持ちは嘘なんかじゃない!」
けれど、
けれどそれに掛けられた言葉は否定よりもずっと辛い言葉だった。
「ならば言おう。迷惑だ。これから闇で生きて行く私にはそんな思い必要ない。」
気がつけばそこに三郎の姿はなくほろほろと流れ落ちる涙が地面を濡らしていた。
「。」
「そんなところにいると風邪をひくよ?」
「美味しい菓子を手に入れたんだ。」
「ほら、おいで。」
優しい蒼色がただただ目にいたかった。
back
next
戻る