ドリーム小説



<




宵闇 三郎8













帰ってきた三郎先輩が重傷だと聞いても体はすぐに動いてくれなかった。

心は逢いたいと叫ぶのに

頭では行きたいと思うのに


体が動いてくれなくて。


ばたばたとあわただしい医務室をただ遠目で見ることしかできなくて。


小さく震える体を抑えるすべがわからない

真っ白になっていく頭の中で混乱は収まることなく


怖くて怖くて

失うのが怖くて


     『それを失うことによって弱くなる自分を。 』


雷蔵が言っていたことがようやっと理解できた。

あの人はこの感情を恐れていたのだと。

なくすことで弱くなる己を

手に入れることでさらに大きくなる不安を





怖くて怖くてたまらないそんな感情に巻き込まれそうになった時、名前を呼ばれた。

ふわりふわり銀色の髪を風になびかせて。

無表情なのにどこかぴんとした空気が張っていて。


、行かないの?」

問いかけられたそれに、答えられなくて。

「ねえ、


「私はが好きだよ。」



答えないままでいたら告げられた言葉達。


「きはち、ろう・・・?」

「滝とか三木とは違う好き」

「愛してるの好き」

「私は滝が好きだけど」

の方がもっと好き」


淡々とまっすぐにそれらの言葉は気持を凝縮したみたいに耳に溶ける。


顔が赤くなるよりも、驚きの方が大きくて

にとって喜八郎は大事な友人で大切な仲間で


だからこそ、そんな思いを持っていたということに驚きしか出てこなくて。


言葉を発することができずにいるにふ、と喜八郎が微笑んだ。


「だからね、


「私を振るんだからの思い人と一緒になってくれないと許さないよ。」


悪戯そうなそんな笑みは珍しくて


ごめんなさい、ではなくてもっと伝えたい言葉が溢れた。


「ありがとう、」


「行って来い。」

「また何か言われたら僕たちのところにこい」

「僕たちは何があってもちゃんのこと大好きだから。」



いつの間にそこにいたのか振り向けば滝夜叉丸に三木エ門。

そしてタカ丸。


温かなその言葉達に背中を押されてあの日のように走り出した。





たとえ嘘だと思われても、この想いを認めてもらうまでは言い続けてやる。


たとえ必要ないと言われても、俺には必要なんだと追い続けてやる。


たとえ迷惑だと言われても、ならば嫌いかと問うてやろう。




だからだから



まっていてください
















「よく言ったな喜八郎。」

ぽむりとその頭を撫でてやればぶすりとしながらその手を感受する。

「頑張ったね喜八郎。」

柔らかな声に溢れそうになった何かをこらえるようにタカ丸さんに抱きついて。

「お疲れ、喜八郎」

三木エ門の声を遮るみたいにばしばしと三木エ門をしばく。

溢れるほどの想いをあれだけの言葉に押し込めて伝えた。

ずっとずっと思っていたあの子にその思いを見せた。

それはこの自分本位な喜八郎にとってどんなに大きな変化だったのか、想像に難しい。

でも、それでも、これから先も喜八郎はのことを思っていくのであろう。

時間が許す限り傍にいて、温かく見守り、時には協力し

長い時間が喜八郎の心を早く癒すことを祈ろう。

そのために、私たちも手伝おう。


なあ、

こんな喜八郎のためにもお前はあきらめるべきじゃない。

あの偏屈で変なところで頑固で意固地な先輩をお前ならば解かせるだろう

お前ならば溶かせるだろう。


早くいつものお前に戻って、この学園に笑顔を振りまいてくれ。

早くいつものようなお前に戻って、私たちの前で微笑んでくれ。

心配性で弱虫で頑固でそれでいて怖がりでだけどとてもとても優しい

そんなお前に早く会いたいから。



















back
next
戻る