ドリーム小説
宵闇 三之助4
突然唇を奪ってからはや五日。
困ったことに先輩は一言も口をきいてくれなくなった。
それどころか、気配を見つけて追いかけてもいつの間にか消えるようになったのだ。
そしてそのたびに不機嫌な綾部先輩か何とも言えない顔をした滝夜叉丸に出会うようになった。
今日も例に漏れることなく___
「先輩!・・・また滝夜叉丸かよ・・・」
「先輩をつけろ先輩を。」
先輩の気配がしたから追いかけてみればそこには何とも言えない顔をした滝夜叉丸。
ぼそりとつぶやいた声にいつものお決まりの返事。
はあ、とため息をつけばつきたいのはこちらの方だと返された。
「滝夜叉丸、・・・先輩。先輩知りませんか?」
ぎろりと睨まれたので慌てて先輩をしつければ再びため息。
「教えるなと言われてるから教えん。」
それはつまり知っているということ。
なんというか、ムカつくものだ。
「・・・誰にですか?」
問えば宙に目をさ迷わせた後、ぽつりとつぶやいた。
「・・・喜八郎に」
「先輩でなく綾部先輩なんですか?なんで?」
まさかの人物の登場にいらついていたのもふっとんで、というか先輩がそう言ったわけじゃなかったことに少なからず安心した。
まあ、綾部先輩へのいらつきは増したが。
「いや、それは、まあ・・・そ、それよりも三之助。お前のところに来る時は迷わないんだな。」
俺の問いをあっさりと流してそう言えば、と続ける滝夜叉丸。
というか迷う?なんだそれは?
「いつも迷子になるのは滝夜叉丸たちですよ。」
「先輩をつけろ、無自覚め。」
「言ってる意味がわかりません。」
何言ってんだこいつ、という目で滝夜叉丸を見れば今までの中で最大級のため息。
「ちょ、さっきからため息ばっかつかないでください。あんたのはいいですけど俺の幸せが逃げます。」
告げれば本当に疲れた顔をされた。
「富松。さっさとこいつを連れてってくれ。」
「言われなくてもそうします!」
「わ、ちょ、作」
俺の後ろに向かって言われた言葉はいつのまにかそこにいた作に向けられたもの。
がちり首元を掴まれて連れて行かれた。
あ〜あ、また今日も先輩に会えなかった。
ほんっとうに厄介な奴に惚れられたなあ
三之助が引きづられて行くのを見ながらそう思った。
あの日、帰ってきては熱を出してぶっ倒れた。
まるで知恵熱と言わんばかりに。
話を聞いた滝夜叉丸によりそのことは三之助に知られることなく終わったが。
「たきい・・・」
褥に横たわった弱弱しい姿はいつもと違って覇気はなく本当に困ったと声で伝えていた。
「大丈夫か?。」
ちなみにこの時は喜八郎がまだ蛸壷掘りから帰ってきてなかったので私との二人だ。
・・・と見せかけて襖の向こうに気配があることをわかってはいたが。
「どうしよ・・・」
「お、れどうしたらいいんだ?」
「いきな、りあんなん、されても」
「わかんな、」
「他の名前呼ぶな、って」
「どうい、うこと?」
熱のせいかなんだかうやむやな言葉は支離死滅。
一言一言発するたびに小さくなっていく声。
それと同時に大きくなっていく後ろの殺気。
「・・・」
なんとなく感覚でわかる言いたいこと。
言ってること。
相手はたぶん、というか十中八九三之助だろう。
三之助を迎えに行ってからこいつはこうなったから。
まったく、なにをしたんだ三之助。
脳裏によぎる後輩にため息をつく。
「おれ、はそんな、のわかんな、」
未だに何かを話し続けるに布団をかぶせて眠らせる。
ぽんぽんと布団の上からたたいてやればしばらくして聞こえ出す寝息。
「喜八郎。殺気が出てる。」
そのままほおっておいたら今すぐにでも三之助のところに飛んでいきそうな喜八郎を部屋の中に入れることでとどめて
無すりとした表情に再びため息。
本当にこいつらは世話の焼ける。
「次屋、何したの」
疑問でなく問うそれは今の喜八郎をありありと現していて少々怖いものがある。
「私にもわからん。・・・だがあとで聞いておこう。」
むすりとした表情を崩さないままで喜八郎はずりずりとの布団のそばへと這っていく。
そのままこてんとの横に横たわりそっとに手を伸ばす。
さわりさわり柔らかくの髪をなでて。
その手があまりにも優しくて、喜八郎の眼があまりにも柔らかくて。
本当、は厄介な奴ばっかりに好かれるなあ。
脳裏に浮かんだ蒼い人をも思い出して苦笑した。
でもまあ、いまはとりあえず
あの後輩に何をしたのか吐かせるのが一番だ。
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