ドリーム小説
宵闇 三之助5
どうしようどうしようどうしよう
最近頭を占めるのはそんな言葉ばかりだ。
授業では見事なまでのへまをするし、座学の授業中もなんだか考えがまとまらない。
それもこれも全部全部あの後輩のせいだ。
あんな、あんなことをするから、
思い出すたびに顔が赤くなる熱が上がる。
それを見るたびに喜八郎の機嫌は悪くなるし、滝夜叉丸は困ったように笑う。
タカ丸さんはほほえましげににこにこしていて、三木エ門は呆れたようにため息をつく。
なんでこんなにも混乱しているのが自分でもわからない。
『俺の前で、俺と二人きりの時に、俺以外の名前を呼ばないでくださいよ。』
三之助が言った言葉が頭の中でぐるぐるしているけど、その意味がわからなくて
なんで、そんなことを言ったんだ?
そんなこと尋ねられるわけもなく、さらに言えばあの時から三之助にはあってなくて。
気配がしたら逃げて、逃げて、そうして遠くからその姿をそっと見るんだ。
黄緑色の制服が去っていくのを見てなんだか痛みを訴える胸を無視して。
そんな日が幾日も続いている。
こんなままじゃいけないと思いつつも、前になかなか進めなくて。
去っていく三之助と目があった気がした。
「っ、」
それに驚いて慌てて隠れて。
顔が赤くなるのが自分でわかった。
これは、あんな風に勝手にキス、されたから焦ってるだけ、だから、こんな風になるのは今だけだ、から。
焦って、心が不安定で、そんなの嫌なのに。
「」
呼ばれて振り向けばそこにはふわり銀色。
きゅう、と抱きしめられてふわり温かな温もり。
それはあの時の三之助のものとは違ってとても落ち着くもので。
「喜八郎・・・」
つぶやいた言葉に何、という返事。
「俺は、一体どうしたんだろう。・・・自分がよくわかんないんだ。」
そう言えばとても大きな、大きなため息。
「ねえ、。」
そっと離された体。
まっすぐな瞳に少しだけたじろぐ。
「今、私はに抱きついたよね。」
「え、うん?」
ことり首を傾げて言ってくる喜八郎は女性顔負けの可愛さだ。
本人は怒るから言わないが。
「どう思った?」
「?あったかいなあ、って。」
そう言えば全力で脱力された。
はあ、と嫌がらせのようなため息。
「じゃあ、
次屋から抱きつかれた時はどんな気持ちになった?」
再びの問い。
それはまっすぐとの心を、偽ることを許さぬと追いつめる。
「そ、れはっ、」
「私と一緒?ただ、あったかいなあ、って思っただけ?」
浮かぶあの日のこと。
思っていた以上に大きな懐、逞しい胸、低い、声。
それに確かに体中が沸騰するかのように熱くなった。
どくん
大きくなったその胸の音は一体何だったのか。
ふわり
触れた口づけは優しくて___
そこまで思い出した瞬間にぼおっと体中の熱が上がった。
なぜかほとりと涙が溢れて。
「」
その頬が喜八郎の手に包まれた。
ふわり
その安心できる温もりに心が、体が落ち着いていく。
「、その感情の意味を少しずつでいいからわかっていって。」
そっと雫がぬぐわれる。
「その気持ちは、たったひとりに向けられるもので」
ふわり滅多にないほどの優しげな笑み。
「その思いに気が付けるのは自分しかいないんだ」
「だから、早く気がついてあげて。」
ぎゅう、と再び抱きしめられて、ぼんやりと考える。
自分の中のその感情について。
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