ドリーム小説
宵闇 三之助7
体育委員会の途中。
裏裏裏山でのマラソン中。
珍しく休憩などという人としての優しさを見せた体育委員長は俺のそばに座り込んだ。
「なあ、三之助。」
その声はいつもよりもずっと柔らかくて。
「となにかあったのか?」
疑問であるはずのそれはまっすぐと俺の眼を観ることで意味をなす。
視界の端では金吾と四郎兵衛がまったりと原っぱにねっ転がっている。
そのそばにいる滝夜叉丸は二人を見守って入るが意識はこちらに向いているようで。
「ちょっと、あったんです。」
「何が?」
濁すように言ったにもかかわらず、深く聞こうとする小平太先輩に思わずため息をつきそうになる。
「ちょっと、無理矢理___」
「無理矢理は駄目だぞ?三之助」
それをあんたが言うかといおうかと思ったがややこしくなるのでそれはやめておいた。
「それから避けられてるんっす。」
「う〜んそうか。・・・三之助!」
「なんっすか?」
うやむやにしてとりあえず結論を述べれば閃いたように輝く笑顔。
「押してダメならもっと押せ、だ!」
「小平太先輩!三之助に間違った知識を教えないでください!」
すっぱりさっぱり潔いまでに告げられた言葉は滝夜叉丸の言葉に遮られて。
「なんだ、滝、聞いていたのか?」
にぱりとした小平太先輩の言葉に見事なまでの脱力を見せながら滝夜叉丸は小平太の目の前に座り込んだ。
「お願いですからいい加減なことを言わないでください・・・挙動不審なとそのせいで機嫌の悪い喜八郎の間に挟まれるのは私なんですから・・・。」
大げさなまでのため息を吐いて滝夜叉丸は項垂れる。
「何を言う滝。今しかできぬことを今しなくては。これから先があると、誰が保証してくれるのだ?」
いつもとは違う口調で話しだした小平太先輩に驚いてその顔をまじまじと見る。
「今しなければ後悔するようなことはしなくてはいけない。」
何処となく痛そうに悲しげに、その口調は優しく響く。
「この間のようにいつ何時何が起こるかわからないのだ。」
これから、それは誰にもわからないことで。
「ならば三之助。後悔せぬように、な。」
くしゃり頭に手が優しくおかれた。
俺も滝夜叉丸も何も言えなくて。
ただ辺りに風が吹いた。
「まあそうはいっても駄目な時は駄目なものだがな!」
先ほどまでのしんみりとした空気はどこに行ったのがおかれた手がぐしゃぐしゃと頭をかきまわす。
ぐわりぐわり回る視線にちょっと気持ち悪くなっていればそれを見つけた二人の後輩がころころ転がってきた。
「ずるいです、三之助先輩!」
「小平太先輩、僕も僕も!」
じゃれ合っていると勘違いしたのかきゃあきゃあと言いながら小平太に飛び込んでいく二人。
金吾も四郎兵衛も楽しそうで。
「よし、来い二人とも!」
小平太先輩も楽しそうに駆けまわる。
それをぼおっとした頭で見ていれば名前を呼ばれた。
「三之助」
その瞳は何処となく諦めを含んだもので。
仕方がないなあというようなもので。
「なんすか。」
その表情にむっとして問えばカラカラ笑い声。
「はうといのだ。恋愛ごとについては特に。」
知っているあんたに言われなくても
「急いてはことを仕損じる。というであろう。」
わかってる自分でもそんなこと
「もう少し待ってやれ。あいつはあいつなりに答えを探して迷っているのだ。」
でもあの時目があったあの時あの人は顔を真っ赤にしながら逃げだした。
それが俺の行為に対してなのか好意があるからなのかわからなくて。
不安なんだ
けど___
「ちゃんと答えを見つけるだろうから。」
あんたがそう言うのであれば、もう少しだけ待ちましょう。
早く気がついてくださいよ先輩。
俺のこと。
はやく。
俺以外、にうつつを抜かさないで。
あの穴掘り小僧にも、変装の達人にも。
彼らじゃなくて俺を見て。
彼らのものではないけれどまだ俺のものでもないあんただから。
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