ドリーム小説









宵闇 三之助8


















「ねえ、孫兵。」

放課後委員会室に向かう途中。

見つけた黄緑色にどきりとしたのを隠してその黄緑色に話しかける。

今日も首元の色彩は美しく緑に映えて。

「なんですか?先輩。」

きょとり

散歩中だったのだろう。

じゅんこをなでていた手をそのままにを見つけ縁側によってきた。

「あ〜、え、と・・・」

少し言い淀むに不思議そうな顔をする孫兵。

「どうかしましたか?」

「・・・孫兵に、こんなこと聞くのはおかしいとは思うんだけど・・・」

微かに顔を赤らめて視線をそらして言い淀むを下からのぞき組む孫兵。

「なんですか?僕でよければ相談に乗りますよ。」

その言葉にようやっとは孫兵の眼を見た。

「あん、な?じゅんこに触れる時、と、それ以外に触れるときって、・・・違う、のか?」

ぽかん

と一瞬の空白。

「っ、やっぱいい!今の聞かなかったことに___」

「全く違います。」

それに耐えきれなくなり慌てて今のをなかったことにしようとするに孫兵が微笑んでいった。

「ちがう?」

それに頷いて孫兵はいとおしそうにじゅんこをなでた。


「じゅんこに触れるときはすごくどきどきします。」

 触れることを拒否されないかどうかと

「でも、幸せなんです。」

 受け入れてくれたことへの悦び

「他の人に触れられるのが不安なくらい」

 自分のためだけに存在してほしいという嫉妬

「いつでも目の届くところにいてほしい。」

 傍にあってほしい

「他の花子や君太郎とは違うんです。」

 何物にも代えがたい唯一の存在

「触れたくて触れたくて、でも不可侵の女神のように穢しがたい存在。」

その言葉の通りじゅんこに触れる手は優しく尊いものに触れるように柔らかく。

「傍に入れれば嬉しくてでもドキドキしていたたまれなくて

 傍にいなければ気分が沈んででも思い出すだけで幸せに慣れて

 傍に入るのは恥ずかしいくせに誰かといるといやだなあと思ったり

 傍にいるのに気づけないこととか知って悔しくなったり」



「知ってますか、先輩。」

ふわありとても綺麗に微笑んで孫兵は言った。


「こう言う気持ちをね、好きというんです。」





その瞬間心の奥に知らない言葉が生まれた






!伊賀崎!」

突然聞こえてきたのは三郎の声。

同時に上から下りてきたその人は何処となく焦ったように言の葉を告げた。

「体育委員会が向かった裏裏山で落ち武者たちが小競り合いを起こしている。体育委員がまだ裏山にいる!」


それを聞いた瞬間体は勝手に動き出した

ただただあの黄緑を見つけなければという感情だけで体は動いていた。













「早く気がついてあげてください先輩」



走って行った背中を見送りながらポツリつぶやいた言葉。

先輩には伝わってはいないだろうけどすぐそばのじゅんこはしっかりと聞いていて僕に体をするりとくっつけた。

思い出すのはいつかの夜の会話。



三之助がいつもより長く行方不明になっていたあの日のこと。

あの日帰ってきた三之助の第一声は

「俺先輩に接吻した。」

だった。

悲鳴をあげてあらぬ妄想を繰り広げる作兵衛と顔を真っ赤にする数馬と藤内。

左門はきらっきらした目で三之助を尊敬のまなざしで見つめていて、僕は___

「三之助。承諾は得たのか」

じっとその目を見つめ聞けばいいずらそうに小さな声でしてない、とつぶやいた。

それにぴたり部屋の騒音が止まる。

ちなみに左門の目のきらきらはとれていない。

「今すぐ謝ってこい。」

ごごごと何か後ろに見えそうなほど切迫した空気をまとった作兵衛が立ち上がってそう言った。

「無理矢理は駄目だよ三之助。」

数馬がまじめな顔をして告げて。

「何ならついていくよ?」

藤内の声にぐっと三之助が手を握り締めたのが見えた。

「三之助」

三之助が爆発する前にそっとその手を取った。

「あんな近くにいるのに。抱きしめたのに。あの人は俺を全く異性として見てくれない。」

ぽつぽつこぼされる言葉達

「俺のこと可愛い後輩としか思ってなくて。」

それはどんなに三之助が先輩を思っているのかとよくわかるもので。

「それがやだったんだよ。俺は先輩にとって後輩で、それは事実だからこそ追いつけないのが嫌だったんだ」

ぎゅう、と今度はもう片方の手を握り締めた。

「三之助!」

それをとったのはきらきらとした目をそのままの左門だった。

「左門は先輩のこと大好きなんだな!」

その言葉は部屋中に響いた。

「ああ。大好きだ。」

微かに赤い頬で

「鈍いとこも」

そっと想いにふけるように目をつむる

「俺を後輩としてしか見てないとこも」

仕方なさそうに苦笑して

「体を張って後輩を守ろうとするその姿も」

それでも三之助は

「何よりあの笑う顔が大好きだ」

くしゃりとても愛しげに笑った



そのあと作兵衛にこんこんと説教されてそうして次の日から先輩を追っかけまわすようになった三之助。

でもあの日以来会えていないようで。

しょんぼりとしたその姿はこう言っては何だが似合わない。

そんな姿を見るのは正直言っていやだ。

あの能天気で無自覚なそんなままでいてほしい。



走って行った背中が見えなくなった。

傍にいるのはじゅんこ、だけではなくて鉢屋先輩もで。

「まったく、鈍いなああの子は。」

「三之助はそんなとこも好きと言ってましたけどね。」

それに苦笑する鉢屋先輩。

なんとなく、なんとなくだけれどもこの人もきっとあの人のことが好きだったのだろう。

口に出すことはしなかったけれどもきっと。



「さて、私たちも探しに行くか。」

一瞬で切り替えられた空気は忍びのもの。

先ほどの報告はウソではなく真実で、ならば自分も出よう、と。

動物たちの力を借りようかと飼育小屋へと向かった。



三之助、安心しろ。

あれはただの後輩に対する態度じゃない。

ちゃんとお前は意識されているし、ちゃんとあの人は答えを探してる。



 『あん、な?じゅんこに触れる時、と、それ以外に触れるときって、・・・違う、のか?』


だって、僕にあんなことを聞くんだもの、ねえじゅんこ。











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