ドリーム小説
宵闇 弐ノ拾壱
正門から聞こえる微かな金属音。
それに横にいた伊助くんが小さく体を震わせたのが見えた。
僕の体も微かに、震えた。
「来たみたいだね。」
喜八郎がそう言って立ち上がった。
「行くの?」
「ここは任せますよ、タカ丸さん。」
僕の声に答えでない答えを返して、喜八郎は蔵から出て行こうとした。
「先輩、僕も行きます!」
慌てて藤内君が立ち上がって喜八郎に駆け寄った。
ことり首を傾けて、喜八郎は考えるしぐさを見せた。
連れていくかどうかで迷っているのが見て取れて。
「喜八郎さん。」
その喜八郎を見てか、先ほどまで静かに座っていた結縁がゆっくりと口を開いた。
「罠のことは任せてくださいな。ここよりも正門の方が苦しいと思いますわ。ですので、早く行って差し上げてください。」
ああ、そうか。
作法委員が仕掛けて罠を見る人が必要だから喜八郎は迷っていたのか。
「・・・任せるね、結縁。」
そう言って喜八郎はくるり、藤内くんにそして作法の一年生をいった。
「行くよ、作法委員。」
「「「はい!」」」
二人の一年生がころころと転がりながら喜八郎に駆け寄っていった。
「それから、虎若も一緒においで。」
「へ?」
ゆっくりとこちらを見て喜八郎は虎若君を呼んだ。
「虎若の鉄砲は役に立つから。」
「!はい」
それにぱっと立ち上がって彼に駆け寄っていく虎若くん。
そうして紫色の彼は黄緑と三つの水色を従えて、改めてこちらを見た。
「この場所は任せます。タカ丸さん、火薬委員。図書委員、生物委員。それから、くのいちも。」
それに笑って答えた。
「まかせてよ。」
「お気をつけて、喜八郎さん。」
結縁さんがそう言ったのを最後に、喜八郎たちの姿は消えた。
綾部先輩が出て行った。
それを見やってじゅんこをそっと撫でた時、知らない気配を感じた。
同時に、じゅんこが、生物委員が連れていた生物たちがふるり体を震わせて威嚇を始めた。
こちらにも、来たようだ。
「タカ丸さん、こっちにも、きましたよ。」
ふるり震えたちびたちの頭を軽く撫でて、立ち上がる。
「三治郎、一平、孫次郎」
「「「っはい」」」
「自分の身は自分で守れるな?」
「「「はい」」」
その潔い返事に、まっすぐなまなざしに、ふ、と笑みがでそうになるのをこらえて告げる。
「きみこたちは持っているか?」
生物委員で飼っている生物の名をあげれば頷く三人。
「いざとなったら彼らを使え。」
それに一度だけ体を震わして三人は頷いた。
大切な大切な生き者たちを、友達たちを、手放すのはとてつもないくらい悲しいけれど、それでも生きるためには仕方ない。
ごめんね、僕たちの人間のエゴにつきあって。
「伊賀崎さん。」
ゆっくりと蔵の外へ向かおうとすればかけられた声。
そこには同い年のくのたまの結縁。
「罠に関しては私たちくのたまの方が詳しいですわ。一緒にまいります。」
その言葉と共に立ち上がる他のくのいちたち。
「わかった。行こう。」
金色の、太陽のような彼を見ればその顔には少しの不安。
でもその瞳はまっすぐで。
無条件に向けられる信頼のそれに、答えたいと思った。
首元にいたじゅんこがするり腕に巻きつく。
さあ、地獄の旅へと招待してあげましょう。
学園内に増える複数の気配
それはどんどん数を増していく。
その中でどんどん小さくなっていく気配もあって。
それはきっと罠に落ちて言ったものたちのものであろう。
鋭い剣劇が、刃の合わさる金属音が学園内に響く。
それはこの学園が戦場になった証拠で。
庵内にいる水色が小さく震えて、級友の名前を呼んだ。
外で戦っている彼らを思う、心やさしき卵。
※※※※※
2012/10/18 訂正。(拾話と同じでした。)
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