ドリーム小説








宵闇 弐ノ拾睦

















「ねえ、利吉。」

「なんだ、彰義。」

「なんだか今日の闇は騒がしいですね。」

「・・・は?」

りいりいと虫の声が響く中、彰義が発した言葉にこいつは何を言っているのかという思いが浮かぶ。
でも彰義はいたってまじめにその言葉を述べているようで。

「まったく、久しぶりの忍務がない日くらい、こんな勘を捨てたいものです。」

「忍びとしてそれはあってはいけないだろうが・・・」

「それでも思うのは自由でしょう。」

いつもとはちがい忍びらしくない言葉を述べる彰義にため息が漏れると同時に心の底で少しの悦びが生まれた。











私が彰義に出会ったのはずっとずっと昔。
それこそ、本当にお互いが覚えていないころだ。

始めて会った時、彰義はさばさばとした面倒くさがりやながらも人のことを思う心やさしい子だったように記憶している。

だが、彼の両親は彰義が5になるかならないかのときに殺されている。

殺された理由というのはなんでも彰義の父親が抜け忍だったとか。
忍務先で殺す予定だった相手に恋に落ち駆け落ちと共に里を抜けた。
そのまま隠れ住んでいたのだがついにばれて・・・ということらしい。
その時彰義は両親に隠されながらもその一部始終を目にしていた。


目の前で殺される両親を。


その時から彰義はがらりと変わった。

いままで人を思い行動していたのは自分本位に変わり、他人を信用することがなくなった。

何に執着を持つこともなくなった。

そして私のことですら、重荷、と思うようになったのだろう。

彰義は両親が亡くなってから約一月後、姿を消したのだった。







そうして彰義に久しぶりに会ったのは戦場であった。

あの頃、私はフリーになったばかりで、それでも彰義の噂は幾度となく耳にしていた。

冷静沈着でいて炎のごとく刃をふるう。
冷徹で残酷な忍びだと。

だからこそ戦場で姿まみえた時は驚いた。


後ろに年端もいかぬ幼子を連れていたのだから。


あの時の驚きは鮮明だ。

忍びの中の忍びとして恐れられる彰義が子供を連れて任務に挑んでいたのだから。

だが、よく見てみれば子供の方はただただ彰義においていかれまいと必死に彼の後をついて回っていただけであって、忍務というものに何の思いもなかった。
さらに言えば彰義自身が勝手についてくるならついてくればいいという態度で子供に向かっていたのであって。

だから、子供は置いていかれない為に体を鍛え技術を手に入れた。

邪魔をされないのであればと彰義も子供のことをほおっておいた。

そうして出来上がった関係はなんとも不思議で滑稽なものだった。

否、滑稽なものだと思っていた。

我が道を行く彰義にただただ従順についていく

後ろを見ることもなく道を突き進む彰義。

だが二人はそうやって関係を築いてきたのだ。

二人の関係はそんな淡白なもので十分であったのだ。




それでも、彰義はあの時とは違った。

自分本位で動くことに変わりはなかったが、それでも多少なりともその子供を気にかけていた。

何に興味を持たなかった彰義だったが、その子供にほんの少しの興味を持っていた。

さらには自立させるという目的で、その子を忍術学園へと、箱庭の中へと放してやった。

それはあの頃の彰義とは違っていて。


間違いなく彰義の心を変えたのは、彰義の中に存在しているのはあの子に、になったのだ。


その証拠にが卒業するまで会わないと宣言していたくせに、すでに幾度となく出会っている。

しかも近くまで来たからと言ってふらりと忍術学園の近くに潜むのだからなおさらだ。

そしてこの間他の皆の前にまともに姿を現わしてからはふっきったように頻繁に学園に訪れている。


そう、いまみたいに。



明日は休日だということで、二人は忍術学園に向かっていた。

そんな私たちのもとに一羽の闇色の鳥が舞い降りる。

彰義が差し出した手にとまったそれは彼の耳もとで何事か鳴き声を洩らすと飛び去った。

「利吉、学園に急ぐよ。」

それを聞いた瞬間彰義の表情が無表情になり、そんな言葉を紡ぎ出した。

それはつまりあのばしょがあぶないということか。



速度を上げた彰義についていくように利吉も足を速めた。


































三木エ門と言いあいをしていたらお使いがこんな時間になってしまった。

それでも、今日は上級生がいないのだ。

どこかで一晩を明かすというわけにはいかない。

あの学園を庇護してくれるはずのものが今日は極端に少ないのだ。

ならば私たちが早く戻らなくては。そう思うのだが思いのほか時間がかかってしまって。

先ほどから一言もしゃべらない三木エ門も似たような思いを抱えているのだろう。

その顔は微かにこわばって感じた







学園に近づいた時、鉄のような臭いと硝煙のにおいが鼻をかすめた。

同時に感じる大勢の気配。

それに三木エ門と顔を見合わせて急いで学園が見える場所へと走った。

そこには大勢の黒い影がうごめき、学園になだれ込む様が見て取れた。




体中にぞわりとしたものが走った





「っ、いまあの場所にはっ、」

三木エ門が体をこわばらせて、すぐさま走る姿勢に入ったのが見て取れた。

「三木エ門、」

それに、ああ、駄目だと頭が訴える。

「まだあいつらに戦わせるには早すぎるっ」

一気に体を運ぶように姿勢を低くする。

止めなくてはと、脳が警告を発する

「三木、」

「帰らなきゃっ」

焦るその姿に私が逆に冷静になれて。

「三木エ門!!」

三木エ門の足が地面をけると同時にその腕をつかむ。

前に行こうとした三木エ門を止めたことで腕がぎちり、痛みを持つ。

「何をする、滝夜叉丸!早く行かなければっ」

「田村三木エ門!」

三木エ門の名前を叫べば、びくりようやっとその目が私を映す。

「あれだけの人数を私たち二人で突破するのは不可能だ。」

瞳に浮かぶ焦りを落ち着かせるように


「ここは先輩たちを呼びに行くべきだ。」

私だって焦っているのだ。

あの場所は私にとっても大切な場所。

なくすわけにはいかない唯一無二の場所。

だからこそ、いまここで判断を誤るわけにはいかないのだ。


微かに瞬時する瞳。
それを見つめ、告げる。


を、喜八郎を、後輩たちを信じろ。」


それにようやっと彼は頷いた。


















※※※

彰義にとってという存在は自分がここにいることの存在意義になった。
両親が殺されてから、もう二度とあんな思いはしたくないとだれも大切を作らなかった。

でも、一人、世界においていかれたようなを見たときに、何処となく諦めたような雰囲気を持っていたに手を差し伸べてみたくなった。

その温もりに触れた時から彰義の世界は少しだけ色づいた。

利吉との関係は彰義的には複雑。過去を思い出すのが嫌だから、同僚と認識している。
彰義から見たら仕事仲間
利吉から見たら大切な友人。だったり










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