ドリーム小説









宵闇 弐ノ拾捌














忍術学園の正門前。

固く閉じられた扉の前に立っていた男は中から聞こえてくる激しい剣劇の音に唇をかむ。

思っていたよりも守りが堅く攻めに回りきれていない。

中にいるのは年端もいかぬこともばかりだと聞いていたにもかかわらず、だ。

「なにやってるの?戦力となる上の学年はいないんでしょう?」

その男のもとに音もなく舞い降りたのは黒い影。

忍ぶ姿をしているくせに微かな月明かりの中に浮かぶ髪は何かを彷彿させるようなあかいいろ

その声の主に気づいた男はひきつった顔を隠すように慌てて跪いた。

「っ頭、思っていたよりも守りが堅く・・・」

「ふうん。・・・まあ僕は僕に課せられたことをするだけだからいいんだけどね?」

聞いておきながら興味がないように返事を返した男はぺろり乾いた唇を潤すように舐めた。

「今までどおり、ここは任せるよ?僕は行くから。」

「御意」

その男はそれだけ言うと来た時と同じようにいつの間にか姿を消していた。

その姿が亡くなったと同時に男は背中にすごい量の汗が流れるのを感じた。















「・・・え?」

それは一瞬のことだった。

硝煙蔵の入口に立ち辺りを警戒していた三郎次のもとに乾いた声が、どこか間の抜けた声が聞こえたのは。

「どうかしたんですか?タカ丸さ・・・」

タカ丸の漏らしたそれに振り向けばそこにはゆらり倒れ行く人影。

とさり

軽い音と共に地に伏せたその体。
鮮やかな金色がじわり紅く染まっていく。

「タカ丸、さん・・・?」

状況が把握できない

意味がわからない

ゆっくりとその倒れた体に近づいていけばより一層赤が目立って見えて。

「ど、して・・・?」

思わずその体の前にひざまずけばぱしゃり不愉快な水音が辺りに響く。

(この赤いものは何だ?タカ丸さんの体から流れるこの紅いものは 何 )

頭だけがぼんやりとそんなことを考えていた。

「何かありましたか?先輩?」

「せんぱ、っタカ丸さんっ!?」

硝煙蔵の中からでてきた庄左衛門の言葉も伊助の叫び声も耳には入らなくて。

「タカ丸さんタカ丸さん!?」

「伊助、揺らしちゃ駄目だ!」

駆け寄った二人、必死で声をかける伊助と体をゆすろうとする伊助を庄左衛門が止めているのもどこか遠くのことのようで。

ひゅ

それは再び静かに訪れて、微かな空気の揺れる方向に目を向ければ近づいてくる銀色。

二人の後輩は気づかない。

でも、この位置であればあの子たちにあたりはしないだろう。

襲い来るそれに、動かない思考でそれだけを確かめて。



   ああ、じぶんはしぬのだろうか



「っ、」


そんな思いを持ちながら避けることもできそうにないそれに思わず目を瞑るが衝撃は来ず。

キイン

代わりに聞こえてきたのははじき落ちる金属の音。

それにゆっくりと目を開ければ紫色。

それが三郎次を守るように立っていた。

「三郎次、伊助、庄、怪我は。」

「ない、ですっでも、タカ丸さんがっ!」

伊助の声。

その言葉にようやっと頭が正式に作用しだす。

「せん、ぱいっ・・・!」

タカ丸さんが怪我をした。

ようやっと認識したそれに目の前の紫に助けを求めるように悲痛な声を上げる。

「わかっている。庄、伊助、三郎次と共にタカ丸さんを運べ。」

二人の一年は流れていた涙を慌て手ぬぐいタカ丸の横にたつ。

「行きましょう、三郎次先輩」

「ここは先輩に任せましょう。」

1年だというのに落ち着いているその様子にようやっと冷静に近づけて。
ゆっくりと自分よりもよっぽど体が大きなタカ丸を持ち上げる。
紅い色を吸ったその着物は常よりも重く体がきしむ。

それでもこの場所でじっとしているわけにはいかないのだ。

小さいながらも懸命に体を持ち上げる手伝いをする二人の水色に自分がしっかりしなくてはと意識を向ける。


でも、運び出す始めるより先に訪れたそれに、体中が冷水につけられたように泡立った。

「おやあ?僕の刃見破ったんだ。珍しいねえ。」

現れた黒と赤のその人はそう言ってにやり楽しげに口元を歪ませた。











※※※
正門前にいたのは敵のリーダー、だったり。(おそらく登場ここのみ。)








/ next
戻る