ドリーム小説
宵闇 弐の弐
「三郎先輩。」
委員会室に来て部屋に入ればそこには珍しくもまじめに机に向かう三郎。
その横にはもうすでに彦四郎がいて。
「先輩!」
後ろからは庄左エ門が走ってきた。
「今日は何を?」
いつものようにお茶をするわけでもないようで、とりあえず尋ねれば三郎は何処となく苦笑とも取れる笑みを見せた。
「私たち5年、それから6年は明日の夜から三日ほど学園を留守にするんだ。」
それに一番に反応したのは庄左エ門。
「実習ですか?」
それに三郎は少し考えるようなそぶりをして告げる。
「まあ、そんな感じだ。」
あいまいに言うそれははぐらかしたいからだろう。
その証拠に三郎は口をはさむことを許さないかのようにすぐに言葉を発する。
「だから、その三日間学園は4年以下しかいなくなる。委員会もたぶんあまり機能しない。だから先にやれることだけやっておこうかと。」
そう言って先ほど向かっていた机の上からいくつかの書類を取り出す。
「さて、始めるか。」
「。」
本来の活動終了時間を迎えたので、先に一年を帰して三郎と二人で最後の書類をかたずけていれば三郎に呼ばれる。
顔を見ればなんだか困ったような顔。
「どうしたんですか?三郎先輩。」
「本当はあまり他言してはいけないんだけどな・・・今回の実習は6年の卒業認定前の試験だ。」
訥々と話されるそれに
ぞくり
一瞬背筋が凍りそうになった。
卒業
その言葉が重くにのしかかって。
「これに受かれば6年は卒業試験を受けることが許されるようになる。」
卒業するということは戦乱の中に身を置くということで。
卒業するということはもう会えないも同然ということで。
卒業するということはこの箱庭からでるということで。
それはいずれ敵になるかもしれないことを示す。
ぎゅ、と手を握り締めて三郎を見上げる。
「私たち5年は来年をそれを受けるからそのために見に行くことが許されているんだ。」
彼の顔には恐怖などない。
ただ純粋なあきらめにも似た何かが浮かんでいて。
「頑張ってきてください、よ、三郎先輩。」
心からの言葉を言えばふわり彼にしては珍しい笑み。
一瞬、見惚れた。
「私たちがいない間学園のことは任せるぞ。」
「・・・まかせてください。」
彼の笑みに少しだけ安堵を感じた。
委員会から帰って湯につかり部屋に戻る最中。
不意に現れた気配にそちらを見れば二人の上級生の姿。
「勘右衛門先輩、久々知先輩。」
呼べばいつものように勘右衛門から無言の圧力。
「・・・勘ちゃん先輩。」
それに満足したような笑みを浮かべた勘右衛門。
「明日から頑張ってきてください。」
先ほど三郎から聞いた言葉を思い出し告げれば不思議そうな兵助。
「三郎から聞いたの?」
勘右衛門もきょとりとして尋ねてきて。
うなずけばそうかという淡白な返事。
「頑張ってきて、ください、よ。」
念を押すように言えば一瞬の間ののちふわり微笑む勘右衛門がいて。
「、大丈夫だよ。俺たちがいないのは三日間だけだ。それに三日といっても実質明後日の朝くらいには帰って来れると思うから。」
ね、それくらいすぐでしょう?
ゆるり紡がれた言葉は優しく耳に響いて。
心の奥蟠っていた何かがゆっくりと解けていった気がした。
「心配してくれてありがとうな。」
兵助がゆっくりとの頭をなでた。
それに自然に笑うことができた。
「先輩!」
先輩方と別れて部屋に戻れば部屋の前に小さな影。
それがを見つけてぱあと嬉しそうに駆けよってくる。
「おそくなってすまない、きり丸。」
飛びついてきたきり丸をそっと抱きしめてやればにかりとても嬉しそうに笑って。
その姿がとても可愛くて思わず笑った。
「、遅い。」
「いや、なぜいる?」
部屋に入れば何故か居た喜八郎。
寝転びながら寛いでいることがうかがえる。
「きり丸が今日のとこに行くって言ってたから。来た。」
むくり起き上がってを見上げてくる。
「ま、いいか。」
一つため息を吐いて害がないであろう喜八郎をそのままに布団を引く。
きり丸何か飲むか?
聞けばこくり頷く彼に茶菓子と茶を出してやる。
手を差し出してきた喜八郎にも同じように渡してやれば喜八郎は無表情ながらに嬉しそうにした。
「先輩方が明日からいないんすよね」
いくつかの話をしていればそんな言葉。
みれば眠いのか目をこすりながら話すきり丸。
その体を布団に横たえてやればそのまま瞳は閉じられて。
「さみしく、なります、ね・・・」
ほぼ意識が飛んでいるだろう状態でそれでも言葉を続ける姿はいとしい。
「三日なんてすぐだ。」
「そ、っす・・・ね・・・」
その言葉のすぐ後には小さな寝息。
「寝たの?」
「うん。」
布団をかぶせてやれば後ろから喜八郎がのぞきこんできて。
さらりその柔らかな髪を撫でれば身じろぐきり丸。
「、も」
中途半端に切られた言葉。
それにつられるように喜八郎を見ればろうそくの明かりに照らされた端正な顔がふるり視線をさまよわせた。
「喜八郎?」
「も、不安?」
一度ためらったわりにはあっさりと発せられた言葉。
それはの中に沁み込んで。
「そうだね、不安、だよ。」
学園における実力者である先輩方がいないことは、いつも守られる側の自分たちが守る側になるということ。
いずれたしかに来るであろうその立場。
それでも願ってしまう庇護される側であることを。
「でも、。私がいる。・・・それでも不安?」
きょとり大きな目がこちらをまっすぐに見てくるから、なんだか笑いがこみあげて。
「くくっ、喜八郎がいるんだ。何も怖いことなんかないよな。」
喜八郎の眼が柔らかく、笑んだ。
「寝る。」
そう言いながらきり丸の横に入り込んだ喜八郎はそのまますぐに寝息を立て始めた。
「・・・俺に何処で寝ろと?」
一つ疑問を吐きだして、そうして二人の柔らかな髪をもう一度なでてきり丸をはさんで喜八郎の反対側に体を横たえた。
横に感じるぬくもりに大きな安堵をおぼえながら。
※※※
しょっぱなからなんだか暗い。
これから、書きたかったけどなんだかんだで傍観編でできなかったのをしていきたいです。
趣味に突っ走ると思われます。
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