ドリーム小説
宵闇 弐の参
朝。
まだ喜八郎もきり丸も起きていない時。
「っ〜」
は起き上がるとぐっと背伸びをして息を吐き出す。
「・・・食堂、行かなきゃ。」
いつもは朝の鍛練の前に食堂へ向かい米を研ぐ作業をしている。
それは台所を貸してもらう交換条件だったりするのだが、最近は色々あってあまり手伝うことができていなかった。
なので今日はいつもより多めに手伝おうかと思い支度をして、眠る二人をそのままに食堂へと向かった。
「おはようございます。おばちゃん今日はいつもよりも早いんですね。」
食堂にたどり着けばいつもはもう少しあとに来るはずの食堂のおばちゃんがすでにいて。
「あら、おはようくん。そうなのよ。今日は5,6年生が実習で夜いないでしょう?その分のおにぎりを作ったりするから時間がかかるのよ。」
不思議に思い尋ねればそんな返事。
「俺も、お手伝いします。」
そう言って台所に立てばありがとう、とにこやかに返された。
「5年生も6年生もいないなんてさみしくなっちゃうわねえ。」
米を研ぎながらおばちゃんが口に出したその言葉にそうですね、と同意する。
「あと、その実習に先生方もついていくから先生方も少なくなるの。」
「そうなんですか?」
それは初耳だ。
「ええ。それとあたしも二日後の夕方から明後日の昼までちょっと行かなければいけないところがあるのよ。
二日後の晩御飯は用意して行くのだけど、明後日の朝はちょっと用意できないのよ・・・」
「・・・俺でよければ用意しますよ?」
「あら、本当?ならお願いしようかしら。」
困ったように笑うおばちゃんにそう言えばおばちゃんは安心した、と言ってくれた。
「?」
手伝いをしていれば結構時間がたったようでちょろちょろと生徒が食堂内に入ってきた。
ご飯をよそってお盆に乗せていれば名前を呼ばれて。
見ればそこには深緑の集団。
といっても勢揃い、というわけではなくそこにいたのは4人で。
声をあげた仙蔵がおはよう、と言ってきたのでそれに返事を返す。
「おはようございます。」
「手伝いしてるのか!えらいな、!」
「ちょ、子供扱いしないで下さいよ・・・」
満面の笑みの小平太がの頭をつかんでぐわしぐわしと掻きまわした。
「・・・小平太。」
まわし続けられる頭を止めてくれたのは長次で。
「飯、もらってく。ありがとな。」
そう言って盆を取ったのは留三郎だった。
各々が盆を持って席に着いたのを見送って、次に来たみんなにご飯をよそいでいった。
「あれ?先輩っすか?」
再びかけられた声。
見ればそこには黄緑が数人。
「おはようございます。」
三之助に続いて現れた孫兵におはようと返事を返して、三之助にこたえる。
「おはよう、三之助、孫兵。ほら、朝はしっかり食べろよ?」
盆に湯気を上げる味噌汁をのっけてそういえばありがとうございます、との素直な言葉。
孫兵の首元にいるじゅんこをそっと撫でてやればくすぐったそうに身をよじらせてそうして手のひらにその体を擦り付けてきた。
「じゅんこもおはようって言ってます。」
孫兵も嬉しそうに微笑みながらそう言った。
それに笑い返して次に来た水色の集団を見やった。
「「わあ、先輩だあ。」」
「「おはようございます!」」
朝から響く大きな声に元気がいいなあと思いながら返事を返す。
先ほどまでと同じように盆を渡してやればこれまた大きな声でお礼の返事。
その中の二人、乱太郎としんべエがそっと近づいてきてを手招きした。
「どうしたんだ二人とも」
聞けばそっと二人で顔を見合わせて小さな声で聞いてきた。
「きり丸、大丈夫ですかぁ?」
「最近元気なかったんですけど・・・」
二人の瞳に映る不安。
それがどれほどきり丸を心配していたかということがうかがえて。
「大丈夫だ。今日はもういつもどうりに戻ってると思うよ。」
安心させるように言ってやればぱあ、と明るくなる顔。
「ありがとうございます!!」
大声のそれを受け止めれば、二人は先にみんなが座った席へと走って行った。
「。」
「先輩!」
二人を見送っていれば入口から聞こえてきた声。
「おはようございます!」
「おはよう、きり丸。・・・乱太郎たちが心配してた。」
「っ、そうなんですか?・・・ありがとうございます。」
昨晩に比べて元気になったきり丸に安心して、乱太郎たちが心配してたことを告げれば微かに顔を赤らめて恥ずかしそうに笑った。
「、ご飯大盛りで。」
のそり、カウンターに体をひっつけてそう言う喜八郎に後から来た滝夜叉丸が行儀が悪いと叱りつける。
相変わらず母親みたいなその会話。
でも、喜八郎がそれを聞かないのはいつものことだ。
「おはよーございまーす」
後ろから入ってきた蒼色の集団の邪魔になるからと、滝夜叉丸は喜八郎を引っ張って席に着いた。
「あれ、が朝飯作ったのか?」
「おはようございます、竹谷先輩。俺は手伝っただけですよ。」
盆を渡して答えればそれでもありがとなと頭をなでられた。
「、お前は朝ご飯食べたのか?」
「・・・あ」
八左衛門の後ろからひょこりと現れた二つの同じ顔に声を漏らせば後ろからおばちゃんの言葉。
「あとはできるから食べていいわよ。くん。手伝ってくれてありがとね。」
「あ、昼休みまたお手伝いします。」
夜出るというのだけどそれまでにおにぎりを作らなくてはいけないのだ。
手伝えることならやりたいと思いそう言えばありがとう、との返事。
「〜」
自分でよそったお盆を持って、席に向かおうとすれば先ほどの三郎たちから声がかかって。
手招きされたそれに、大人しく向かえば一緒に食べようとのお言葉。
「お邪魔します。」
そう言えばにこり笑う幾つもの顔が見れた。
名前を呼んでくれるこの空間があったかいと思った。
「先輩方気をつけていってきてくださいね。」
見送るのは数人の紫。
夕闇は過ぎたころ。
辺りを染めるのは紺に近い黒。
見送られるのは深緑を脱いだ黒、そして蒼。
「行ってくる。」
「あとはまかせたよ」
「すぐ帰ってくるから」
緩やかな笑顔はその先にあるものを抑えるかのようで。
「いってらっしゃい。」
「気をつけていってきてください」
「この場所は私たちに任せてください。」
見送る側も笑みを見せる。
ぽんと頭に置かれた手のぬくもりが遠ざかっていく。
いってらっしゃい
どうか無事で、なんて言えなくて。
早く帰ってきて、なんて言えなくて。
言ってしまえば、言ってしまえばきっと
彼らが胸の内に秘めているであろう思いを否定することになってしまうから。
※※※
ちなみに文次郎がいないのは朝の鍛練の後水浴びに行ってるから。
伊作がいないのは保健室で今日の準備に追われているからだったり。
朝からいなかった左門を追いかけて作兵衛がいない。
三之助を食堂に連れていく役目をたまたまそこにいた孫兵に押しつけたのでこんなおかしなペアだったり。
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