ドリーム小説
宵闇 弐ノ参拾弐
っ、やばい
そう思った時にはもう遅く、おぼつかなくなっていた足元を簡単に払われ、地に伏す。
迫り来る刃を茫然と見つめながら思うのは先に行かせたあいつのこと。
無事に知らせることができたのだろうか
別れてからどのくらいの時間がたったのかは分からない。
彼がたどり着く時間稼ぎができたのかどうかも。
ああ、でも、彼のことだから、任せられたことは何があろうとやりきるあいつだから。
きっと大丈夫だろう。
直前まで迫った刃を回避するすべはもうなくて。
それでも、自分を殺した相手の顔だけはしっかりと覚えておこうと相手を見やった。
と
キン
という乾いた音とともにその男が持っていた刃ははじきとばされて
どういうことかという状況判断をするよりも早くぐいと腕を引っ張られ引き寄せられた。
「わ、」
疲労と体中の痛みから声をあげれば、腕を引っ張った人物が僕を後ろに追いやって。
驚いて見上げたそこには黒色の背中。
「ばかたれが。これくらいの敵に何を手間取ってやがる」
次いで聞こえた声は、待ち望んでいた先輩のもの
言葉とは裏腹に僕を庇うように後ろに回された手は優しくて。
「し、おえ先輩、」
「間一髪、だったな。」
ふわり後ろに現れた新たな気配は手に焙烙火矢を持っていて。
「たちばな先輩」
「まったく、文次郎は素直ではないのだから。」
「なんだと?」
「心配だった、無事でよかった。そう言えばいいだろうが。」
「なっ、別にそんなことは___」
こんな状況だというのに行われる軽いやり取りに体中にたまっていた疲労が癒されていく気がした。
「三木エ門」
真剣な声に、その背中を見上げれば微かにこちらに目をやっていて。
「相手をしている時間はない、突破する。…ついてこれるな?」
もちろん、です
答えれば滅多にない柔らかい笑み。
「いくぞ。」
立花先輩の焙烙火矢が炸裂して、辺りに煙が充満する。
それを合図に僕たちは走り出した。
あなたの後ろを今までずっと追っていたのです。
こんなときくらいはおとなしく追わせておいてください。
見えた学園の門には黒い影がうごめいていた。
走って走ってたどり着いたそこ
そこでは私の大切な大切な後輩たちが多くの傷を体に刻んで立っていた。
倒れている生徒も何人かいて。
体中が熱くなる。
「三郎、落ち着いて。」
だが、勘右衛門のその言葉にゆっくりと熱がとかされる。
敵を迎え撃ちながらも、傷つきながらも、
その瞳に宿る強い意志に、
その姿に、
その様子に、涙が出そうなくらいに安堵した。
「大丈夫だよ、三郎。あの子たちは俺たちが思っていた以上に、強い。」
「そう、だな。」
勘右衛門の言葉に本当に、この子たちが強くなっていたことに、なんだか感慨深いものが溢れて。
でも、そんなことをしている場合ではない
すぐさま門を突破して、(門の前にいた頭であろう人物は、一番に七松先輩の餌食になった。)
戦況を見る。
危なそうだった時友の元には体育委員が飛んで行ったし、中在家先輩も同じように委員会の後輩のもとへ走って行った。
入ってすぐのところで敵の侵攻を必死で食い止めていた綾部や三年の元には食満先輩、そして兵助たちが向かっていて。
善法寺先輩はすぐさま目につく生徒たちの治療にあたりだした。
くるり見渡したそこ、多くいる水色はは組が多くて、こんな時なのにさすがだと思った。
「庄、彦」
「「三郎先輩!勘右衛門先輩!」」
敵を減らしながら大切な後輩のところへ行けば、二人の眼が本当にほっとしたように輝いて。
「お疲れ二人とも。」
勘右衛門の言葉にふにゃり緩む二人の顔。
「良く頑張ったな。もう少し、頑張ろう。」
頭をくしゃりと撫でて言葉を続ければきりりと慌てて引き締まる顔。
それにひとつ笑いをこぼして再び向き直る敵の方へ
大分減ったそれだがまだいなくなったわけではない。
ふらり、二人の後輩から一歩前に出て、この子たちには見せたことのない笑みを浮かべた
「さて行こうか、三郎。」
「そうだな、勘右衛門。」
この場所に手を出したことを、死んで後悔しろ。
ぱたりぱたり
静かに攻撃をして相手を確実に沈めていく。
後輩が見ているのだからそんなに手荒なことはしないが、怒りは頂点に達しているのだ。
気づかれないように痛みを最大限に引き出すように。
でも、痛みの声など響かせないように。
そんなことこの私にとっては朝飯前で。
ぱたりぱたり
この中にあの子が含まれていないことに大きな違和感を感じる。
あの子の姿がないことが、不安を駆り立てる。
「は?」
敵を倒しながら二人の後輩に尋ねればびくり体を震わせて。
それに、ぎちりいやな音が鳴った。
「学園長、の庵です。」
がたり
歯車が廻るように
「いったい何が___」
私の声を遮り響いた声に、言葉に、
体が無意識に反応した。
「先輩!庵に重傷者が、それとっ、だれか先輩を止めてくださいっ!!」
それを聞いた瞬間体が庵へと向かっていた。
見えない金髪はいったいどこだろうか。
大切な可愛い後輩たちは、傷つきながらもそこにいた。
伊助は同じ水色たちと手を取り合い応戦していたし、三郎次も上級生を支えるために動いていた。
すぐにでも駆けよって褒めてやりたいのは山々なのだが、一番目立つ
年上の後輩の姿が、
人生では先輩で
忍びの道では後輩の
あの金色の髪が
どこにもいないことに
背筋がぞっとする感覚を覚えた。
だからその言葉を聞いた時体は勝手に動いてそしてたどり着いた庵で
金色が赤く染まった姿に
体中に巻かれた包帯に
それがまだ紅く染まって言っていることに
あのふにゃりとした笑みを浮かべる表情がなんの形もおりなさないのに
私の大好きな豆腐のように肌が真っ白なのに
それらを観た瞬間に
今までこらえていた怒りが溢れた。
※※※
くるくるくるくる視点が変わってます。
三木、三郎、兵助です。
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