ドリーム小説
宵闇 弐ノ肆拾壱
目を開けたくせに、一番に心配するのは三年の次屋のこと。
本当に、どうして、君はそう___
一週間。
それがが瞳を開けなかった期間。
一週間。
それが私がと言葉を交わすことができなかった時間。
あの時、どうして私が行かなかったのか、何度思ったかわからない。
私が、ではなく私が行けばよかったのに。
傷だらけのを、私を見てくれないを見たくなどなかった。
という存在が消えてしまったら私はきっと、いまここにいる私は消えてしまうのに。
ねえ、、お願いだから
ねえ、、頼むから
まだ私の前から消えないで。
いつか、くるその時までは___
「三之助はっ!?」
瞳を開いて第一声が、それ?
自分のことでもなくて、次屋のこと?
が後輩を大事に思っているのも、がそう言うのもわかってはいたけれど、
それでも、なんだかいらりとする。
私がここにいるのに、一番に善法寺先輩に声をかけたのも。
なんだかも一ついらりとする。
善法寺先輩の言葉に、ほっとした顔をした。
その瞳からこぼれた滴があまりにも綺麗で、
誰にも、見せたくないと思ってしまった。
気がついたらその体をすっぽりと包んでいて。
以前よりも、小さくなったように感じるその体。
きっと、これが私ととの決定的な差。
「おはよう、」
「おは、よ、喜八郎」
ぎゅうと、痛いのはわかっていたけど、そうしたくてたまらなくなって抱きしめれば、少しの間をおくこともなく帰ってくる柔らかな声。
これがなければ私はどうなってしまうのだろう。
「まったく、はいつも心配ばかりかけるんだから…」
怖さと嬉しさがまぜこぜになった気持ちを隠すようにそう言えばふにゃり苦笑する気配。
「ごめんね、喜八郎。」
そんな風に言われたら許さないわけにはいかないじゃないか。
さっきよりも少しだけ強くを抱きしめた。
喜八郎はいつまでたっても離れてくれなくて、その状態であの後のことを聞いた。
自身記憶として覚えているのは大分曖昧で。
庵に行って、そこで三之助が傷つけられて。
それからのことはまるで暗闇にいるみたいに曖昧な状態。
記憶にあるのは黒い黒い飲み込まれそうなほどの暗闇と、
の名前を呼んだ温かな光だけ。
飲み込まれる寸前に光がをこの場所にとどめてくれたのだ。
「」
たったそれだけの言の葉だけれども、
それがなければは今としていることができなかったかもしれない。
ぼんやりとそう思うのだ。
「」
「目が覚めたんだね。」
「、あ、三郎先輩、勘ちゃん先輩。」
まだふわふわとした思考でいたからか、いつのまにか来ていた二人の先輩に気づけなかった。
「よかった。」
勘右衛門がふにゃり柔らかな笑みを浮かべるものだから、こちらまで嬉しくなる。
「まだ無理はするなよ。」
三郎がそういいながらくしゃり頭をなでてきて。
「」
温かい声がじわり胸の中に沁みていく。
意識がなかったにとってはついさっきのことのように感じられるあの襲撃。
けれども、もう一週間たっていて。
誰も、この場所からいなくならなかったことがただ、嬉しかった。
こんなに小さな自分だけれども、この場所を守ることができたのだと。
でも、まだ足りない。
頭に浮かぶのは紅の髪を持つ男。
あれは、とても怖くて。
ゆるり
顔をあげて三郎を目に映す。
「三郎先輩」
「なんだ?」
不思議そうに首をかしげて問いかけてくる三郎をまっすぐと見つめて告げる。
「俺は今回のことで力不足を感じました。」
現に死者はいなかったとはいえ、多くのものが傷ついた。
「もっと、もっと強くなりたいのです。」
だから、だから、
「これからもご教授願います。」
ゆっくりと頭を下げて口にすれば、ぽすりと再び頭に感触。
「任せておけ。」
ふ、と笑ったのがわかった。
その時ようやっと上級生がいなくなっていた理由を思い出して顔を上げる。
卒業というものにむけて、動き出している先輩たち。
「おかえりなさい、先輩。」
「ただいま」
「ただいま、」
少し驚いた顔をしてけれども、次の瞬間には眩しいほどの笑みを見せてくれた。
いずれ、出ていかなければいけない箱庭であっても、いまこのときだけは安らぎの場所になりますように。
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