ドリーム小説
宵闇 弐ノ肆拾弐
体に走った灼熱の痛み
倒れ行く自分の眼に映ったのは
目の前の紅の男でも
自分が守った数馬でも
後ろで震える後輩たちでもなく
俺を見て大きく目を見開いたあんたの姿だった。
ふらり
目を開ければ、この三年間に幾度となく使用した場所。
・・・おなか減った。
ぼおっとした頭で考えるのはくだらないこと。
あれからどうなったんだっけ?
そう思ったりもするが、それよりも腹の痛みとか空腹とかが勝って。
「・・・腹減った。」
ぽつりつぶやいた声は空気に溶けて、誰にも拾われることなく空気の中に散っていく。
そう思ったのに
「三之助・・・?」
空気を震わしたのは自分以外の声だった。
痛む体をゆっくりと起こして、声の発生地点を見ればどこか泣きそうな表情をしている先輩。
「、先輩・・・?」
無意識に紡いだ言の葉は、先輩の名前を形作って。
柔らかく地面に落ちる。
くしゃり
先輩の顔が歪んで次の瞬間腹に温もり。
体に走った痛みはあったけれど、それより驚いて。
「先輩、?」
俺の腹に腕をまわして顔を胸のあたりに押しつけて。
・・・、何、この状態?!
驚いて頭の中がパニックになる。
俺よりもずっと柔らかな体だとか
俺の腕ん中にすっぽり収まる大きさだとか。
微かに震えるか、らだ、とか・・・?
「先輩?」
黒い髪に覆われて先輩の表情を見ることはできない
でも、その体が微かに震えているのがわかって。
そっと肩に手をやればびくりと一瞬驚いたように肩を震わせた。
「ごめん、三之助」
響いた声はかすれてて。
「俺はお前の先輩なのに」
でも、続く言葉は何とも滑稽なもの。
「お前にひどいけがを負わせた」
そんなこと、謝ってほしくなどない
「俺が守らなきゃなんなかったのに、俺__」
ぱしり
先輩の頬を手のひらで挟み込むようにして少しだけ叩いた。
そうすれば驚いたような瞳と目があって。
「さんのすけ、」
どことなく舌ったらずで呼ばれたのがとてつもなく愛しく感じた。
「先輩」
「俺は謝ってほしくなんかないっす。」
「むしろあんまり役に立てなくて俺の方こそ謝んなきゃいけないくらいです。」
「、っでも、」
ほとほとほと
潤んでいた瞳があまりにも綺麗で、このままずっと見つめていたらどうにかなってしまいそうで。
「わ、」
ぐいと引き寄せてぎゅうと抱きしめた。
柔らかい体も、微かに香る俺にはない香りも、腕の中に閉じ込めるように。
「三之助っ!?」
「俺は守られるのは嫌ですよ。どっちかというと守りたいんです。」
あんたを、だなんてまだ力不足だから言えやしないけれど。
「今回のことは先輩が悪いことなんて一つもありません。むしろこの場所を、後輩たちを先輩は守ったんです。」
黙った先輩にさらに言葉を投げかける。
「ありがとうございます。」
そういえばふるり一度頭を横に振って
「俺の方こそ、ありがとう」
小さな声で述べられたそれが可愛くて、思わず笑みが漏れた。
「さて次屋。そろそろその手を離そうか?」
開いた襖
現れた蒼い影。
その顔がにたりとてもとても楽しそうに笑った。
※※※
三之助視点
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