ドリーム小説





宵闇 弐ノ捌














「「先輩・・・。」」

皆がそれぞれの場所に移動した。

まだ日は落ち切ってはいないが、時間はあまり、ない。

食堂に残ったのはの所属する学級委員長委員会だけ。

しんとしたその場所に響く声は二人の後輩のもので。

恐怖をありありと示すその震えた声に顔を向ける。

その目はこれからのことを考えているのだろう。

微かに潤み、歪んで見える。

「庄、彦」

名を呼べばびくりと震えながらも瞳はしっかりとこちらを見つめて。

「恐れてもいいんだ。怖いと思ってもいいんだよ。庄、彦。」

不安を取り除くようにふわり笑う。

それにきょとり、不思議な顔をする二人にさらに笑う。

「でもな、顔に出すな。自分の弱みを人に見せるな。呑まれるな。自分を、見失うな。」

その言葉をゆっくりと咀嚼するように吟味するようにじっとを見る二対の瞳。

「お前らは、強い。大切な人を守れる力を得ようと日々努力している。」

ゆっくりと庄左エ門と彦四郎がお互いを見やる。

「守れないことの恐怖を知っている。守りながら戦うことの難しさを知ってる。」

だから、そう続ける言葉に二人はを見て。

「大丈夫だ。」


二人はゆっくりと頷き合った。


「それに私たちは、学級委員長委員会だ。冷静さならどこにも負けない。だろ?」

それに二人の後輩は不敵な笑みを浮かべた。



「行くぞ。」

「「はい!」」


返事の声は頼もしくその足取りは軽やかで。




「我ら学級委員長委員会いざ押してまいる!」














始めはあんなにも同様をあらわにしていた

でも、皆の前で指示を出す彼女はとても頼もしく感じた。


私がいるから大丈夫。


その言葉にふわりいつものような笑みを浮かべた彼女心の底から安心した。




「喜八郎さん。」

の声とは違う甘やかさを持つ声が響く。

くのいちである有園結縁はよく私たち作法委員と一緒に罠を仕掛けたりなどをしていたから良く知っている。

そうしてその実力が相当なものであることも。

(ちなみに余談ではあるのだが彼女は私のたあこちゃんにはまったことはない。)

「ここはこうしようと思うのですが・・・。」

「うん。それでいいよ。」

指示されたそれをみて頷く。

彼女の実力は認めているのだから、思うままにすればいいと思うのに彼女はいつも私に最後の判断を持ちかける。

彼女の罠は日々が過ぎるごとにすごいものとなっていくのでそれを見るのは大変楽しいから構わないのだが。

「綾部先輩!これはどうですか??」

「兵太夫、その中にこれも仕掛けておいて。」

後輩たちの声に答えながら他の罠の状況を見ていく。

どれも死にはしないが大けがを負うであろうものばかり。

まあ相手はプロの忍者ばかりだからそんなこと気にしてやるつもりはないけど。

「孫兵、その穴の中に毒虫を入れておいてね。」

「わかりました。」

ゆっくりと夕闇が藍に変わるのを見上げた。











この大切な場所に踏み入ろうとするのだからそれ相当の代償をあげるよ。





















「僕が小松田さんを見るから、左近と乱太郎はくのいちを数人連れて医務室から備品をもってきて。」

「はい!」

「伏木蔵はしんべエ平太喜三太それから残りの子たちと水と布をたくさん庵に運んで。」

「はい・・・。」


いつもなら医務室に運ぶはずのけが人はここの庵に運ばれる。

小松田さんも例外ではなく、食堂で皆一度集まったあとにこちらに移動させた。

傷自体はそこまで深くはないもので。

「・・・よかった。数は多いけど、どれも致命傷じゃない。」

ほっとひとつ息を吐く。

自分にできる範囲での治療をして、手を止めた。


学園長がいる、この庵を拠点としたのは学園長がいるからだろう。

この人を狙う輩は多い。

だからこそ、この場所で傷を治療しそしてこの人のそばにいることを命じられたのだ。




保健委員での最上級生は、僕だから。

あの子たちをまとめるのは僕。

この場所を先輩たちが帰ってくるまで守る。

そのために皆の手助けをする。


それが僕の役割。



実践の授業では悪くもよくもない成績の僕。


でも、けがを治療することだけは、できるから。

「先輩、もってきましたあ」

「ありがとう。」

そう言って受け取ろうとした時、気づいた。

手が微かに震えているということに。

「っ」

自分があまりにも頼りなく思えた。

「先輩」

この場に似つかわしくない柔らかな声。

見ればそこにはふわりいつもの笑みを浮かべる乱太郎。

「私たちもいます、頼ってください。」

ゆっくりと震える手を握られて。

「一人で抱え込まないでください。・・・僕たちだって保健委員なんです。」

そっぽを向きながらもそう言ってくれたのは左近で。


情けないなあ、後輩に励まされるなんて。



そんなことを思いながら震えの止まった手を二人の頭に乗せる。


「ありがとう、頑張ろうね。」

その言葉にしっかりと頷いた二人。




 くるというならこればいい。

   僕らはこんなところで止まりはしない。






















皆各々、自らの得意とする武器を手に持つ。

もちろん装束の下にはくないなどの武器もちゃんと備えてある。

「三之助、左門。お前らはこの場所で全ての敵を退けることに神経を集中させろ。」

「わかったぞ!作兵衛!」

体をほぐしていれば緊張した作兵衛の声。

とあっけらかんとした左門の答え。

見れば作のその顔は何処となくこわばって見えて。

「っ、くくくっ」

思わず、笑った。

「んな!三之助、こんなときになんで笑ってんだ!?」

「作、緊張しすぎ。」

力抜け。

そう言って眉間をこつりとつつく。

それに驚いたような顔をした作。

その顔が面白くてもう一回笑った。

「作!俺たちがいるんだ!できないことは何もないぞ!」

左門が作に背中からのしかかりながら言えば、作はなんだか笑いたいような困ったような顔して口を開いた。

「まったく、本当緊張感のない奴らだなあ・・・」

そのあとに浮かべた笑みがいつも通りだったから、なんだかほっとした。

ゆっくりと辺りを見れば金吾は会計の一年と話をしていた。

弱虫で強がりな金吾だが、剣術の腕はなかなかのもので。

緊張してはいるようだが、悪い方の緊張ではないようだから、よかった。


脳裏に浮かぶ、先輩の姿。

今学園内にいる生徒で最高学年。

学級委員であるあの人は、すべてを背負いこんでしまったりしないだろうか。

そんなことを思う。

食堂で後輩たちを今回の作戦からのけようとした時。

その瞳には見えない恐怖が小さく宿っていて。

握り締められていたこぶしが微かに震えていた。


そんなあの人を抱きしめたい衝動に駆られた。

でもむかつくことにあの人のそばにはいつも当たり前のように綾部先輩がいて。


まあ負ける気はないけれども




「三之助先輩!」

ふいに呼ばれ、意識を戻す。

四郎兵衛が俺の服の裾を引っ張っていて


どうしたと声をかければにぱり、笑顔。


「頑張りましょうね」




その顔に恐怖はない。

作でも緊張していたというのにそれすら、ない。

・・・将来はあの暴君にでもなるのだろうか。

そんなことが頭に浮かんだ。




「ああ、頑張るぞ」


皆に向かって声をあげれば大きな返事が返ってきた。




さあ、おいでませ敵さんがた。


われら忍びの卵が精一杯のもてなしをいたしましょう。













※※※
ちなみに学級委員長委員会の役割は他の委員会との仲人+状況把握。






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