ドリーム小説
記憶を辿って101 希望が見えた
僕の名前を呼んでくれないこと、とても悲しいけれど、
時折僕を気にするようなそぶりを見せている藤内に
確かな一歩を感じていて。
ふわり、教室内で感じる視線。
それは最近ずっと。
その持ち主が誰か、わかっている。
その視線の意味を理解している。
それでもあえて、彼に話しかけることはしない。
もう少し、もう少ししたらもう一度動くから。
思っていた以上に、自分を否定されたことが苦しくて。
この痛みをまだ、消化しきれなくて。
だって、だって、藤内、君だけだったのに。
僕を僕だと認識してくれて、僕を見失わないでいてくれて。
いつも手を、差し出していてくれたのは
なのに
忘れちゃうなんて、ひどいよ、藤内。
「数馬」
休み時間。
教室の入り口から孫兵に呼ばれてそちらへ向かえば後ろに一人の女子生徒を連れていた。
「?」
きょとり、としてまっすぐにその目を見る。
記憶を微かにかすめたその姿。
桃色装束の少女。
かちり
また一つ記憶が鮮明になっていく。
「お久しぶりです。三反田君。」
ゆっくりと頭を下げてお辞儀するその姿。
『いつも治療していただきありがとうございます。』
そう言って同じように頭を下げる姿が浮かび上がる。
「あ、」
思い出したその存在に、思わず笑みが漏れた。
「ちゃん、だよね?」
名前が出てきたことに驚いた表情を見せた彼女は、それでもすぐにふわりと笑ってくれて。
「あの時はなんども治療していただきありがとうございました。」
普段接触がないくのたまと忍たま。
それでも医務室は一個しかないので必然的に彼女たちは僕が所属していた保健委員の元へとやってきていた。
そして彼女自身よく怪我をしていて、同じ学年の方が安心できるだろうという理由で僕が治療をすることが多くて。
「数馬。」
そっと話を聞いているだけだった孫兵が僕を呼ぶ。
孫兵を見れば、穏やかな優しい眼で僕を見ていて。
「二つ上の先輩方を覚えているか?」
それに想像するはあの紺色。
それぞれが六つの学年を体験しているはずなのに、それでも色濃く残っている紺色。
白い豆腐をこよなく愛した火薬委員長代理。
天然ながらその笑みで周りを笑顔にしていた学級委員長委員。
生物をこよなく愛した生物委員長代理。
迷い癖のあるおおざっぱな図書委員。
そしてそんな彼の顔を常に借りていた悪戯大好きな学級委員長委員会委員長代理。
「先輩方皆思い出したらしい。」
その先輩たちがどうしたのかと視線で問えば、柔らかな笑みと共にそんな答えが返ってきて。
「・・・え?」
理解しきれなかった僕に、が次ぐように返事する。
「三郎先輩と勘右衛門先輩しか記憶はなかったのです。」
「でも、皆思い出しました。」
じわあり
それは胸があったかくなる感覚。
その言葉は期待と共に僕の中に広がって。
「思い出して、くれるかもしれないんだね?」
彼との記憶を
あきらめなくてもいいんだよね
それに頷いた二人に泣きそうになった。
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