ドリーム小説



記憶を辿って102  大事だったはずなのに 













また、だ。



かちり、かちり


ふいに目を向ければこちらを見ているまっすぐな瞳。

それは目が合う少し前にふらりと避けられて。

薄紫のその不思議な髪を持つ彼の名は



三反田数馬



少し前に、数馬、と呼んでほしいと言われたのに。

それ以後、一度も呼べていなくて。




あのまっすぐな瞳と目が合うと、動けなくなるんだ。


俺の中の時間が、止まるように、巻き戻されるような、不思議な感覚に侵されて。


かずま


その三文字だけなのに、口にすれば、ものすごい変化が起こるような。

ただ、怖くて。





「数馬。」



不意に教室に響いたのは、その名前。

どきりとした心臓をだますようにそちらを見れば、1組の伊賀崎がそこにいて。


「どうしたの?孫兵。」


じっと伊賀崎を見ていれば、ぱちり、その目が合う。


その切れ目の、鋭い瞳が、俺をじっと見つめるものだから

視線を外すことができなくて。



「孫兵?」


きょとりとした三反田が視界に入って。

その孫兵の視線の先を辿るようにゆっくりとこちらを向くものだから、慌てて目をそらす。


視界の端で薄紫色が、ふわり消えた。




かずま






その名前を噛みしめるように口の中でつぶやいた。








その名前は



大事な気がするのに



















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