ドリーム小説



記憶を辿って103  俺だけは、忘れちゃ駄目だったのに











「みたか?今日の体育の時間!」


廊下を歩いていれば耳に入ってきた声。

何の気なしで聞いていた話だったのに。

なんにも思わずに通り過ぎているはずだったのに。


次の言葉で、足が止まった。





「みたみた!!あの三反田!」



三反田

その名前が俺をその場所に縛り付けた。



「あんな低いハードルだってのに、こけてやがんの!」


じりじり

じりじり

胸が焼かれるみたいに痛みを訴え始めて


「そのあと、何にもないとこでも転んでたよな!」



愉しそうに笑うのは、自由だよ

勝手に話すのも、別にいいと思う。



でも、その名前を出して笑うのはどうにもいただけない。


それを俺の前で、話す意味がわからない。


なんなんだ?

このわけのわからない感情は。

胸が痛くて、悲しくて。



あいつのことを、知らないくせに、笑うなと。



「しかも横にいたやつ巻き込んでな!」





こんな苛立ちの意味がわからないのに、それでも、それでも







「あんなのに本当に友達っていんのか?」






その言葉を聞いた瞬間、体が勝手に動いた。




「っ、何だよ!?」




鈍い音を立てて地面に倒れ伏した一人の男を乾いた目で見つめる。

「誰だよお前!」

その体にねじこませたこぶしが熱く燃えるようで。

以前はこれくらいじゃ何とも感じなかった手が、鈍い痛みを発する。

「だまれ」

ぎゃーぎゃーと騒ぐ二人組をそのまま見下ろして続ける。

「そのうすぎたない口を閉じろ。」



何も知らないくせに

あいつを貶める言葉をはくのか




そんなのは、許さない




きらきら、きらきら


 キオク と呼ばれるものが溢れだす。


あの時、あの場所で共に過ごした仲間たちとの時間が


大事な仲間たちとの、かけがえのない世界が。




ああ、ようやっと、今理解した




あの数馬の行動を。

あの数馬の瞳の意味を。





藤内 そう呼ばれた時の嬉しさ。

数馬 そう呼べなかった理由。









俺だけは、忘れちゃ駄目だったのに










体中から溢れだす怒り






殺気



相手にはもちろん、それは自分があまりにも不甲斐なくて。




それは今の俺に制御できるものじゃなくて。




溢れかえったそれは、






ふわり






温かな手で止められて。





「ごめんね、僕の友人は、ここにいるんだ。」




響いてきた声。





「藤内。ごめんね、ありがとう。」




それは忘れてはいけなかった大切な友人のもの。






ぽろり、透明な滴が零れた。

















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