ドリーム小説



記憶を辿って105  どんなに君に救われたか君は知らない













溢れる殺気。


気がついたのは

一拍遅れて僕。


教室の中、思わず目を向けたはゆっくりと窓の外に向けていた視線を外しこちらを見た。


一瞬の邂逅。


後、二人同時に立ち上がり走り出す。


目指すはあの殺気のもと。



「あんなのに本当に友達っていんのか?」



聞こえてきた声に溢れそうになる怒りは横からの手によって止められて。


「伊賀崎君。今はまだ、駄目だよ。」


存外に落ち着いたその声色に自我を取り戻す。


「きっと、浦風君のところには三反田君がいるから。」



きっぱりと、まっすぐと告げられたそれ。

確信があるわけじゃないのにそれでも少しも疑わない彼女。





そんな彼女に、僕はこの世界で救われたんだ。



あの時出会った時、いらないことをするなと叫んで遠ざけて。

心にふたをして生きていたのに。

彼女は簡単にその箱を開けた。



暗かった世界に光をくれたんだ。



あの頃みたいに生きれないとこの世界に生を受けてからあきらめて。

なのに、なのに彼女はその考えをいとも簡単に壊した。


きっと彼女は知らない。

その発言がもたらす効果を。

その言葉が変える心を。





「いた、」

小さく聞こえたの声。

それに意識を前へと向ければ四つの人影。

ふわり薄紫色に近い桃色の髪。

そんな数馬が掴んでいるのは倒れ込んだ男の上に馬乗りになっている藤内の手で。



「ごめんね?僕の友達は、ここにいるんだ。」



ほろりと小さくこぼれた雫。

そんな二人の姿に安堵のため息が漏れる。





でもそれよりも何よりも、

僕だって、


友人だというのに。




友達じゃないなんて言わせない



あの頃、あの世界で

何よりも孤独がいいと望んだ僕に


何度も何度も手を差し出したお前たちは


僕を友だと呼んでくれたお前たちは



また、ここにいるのだから。





「藤内だけじゃないよ。僕も」



「私も。」


ゆっくりと数馬の横に立てば驚いたように目を向けてくる藤内。


その視線を一度だけ見返してそのまま倒れている男を見る。

先ほどまでその後ろにいたもう一人の男は姿が見えず、それはつまり逃げ出したということで。

くつり、くつり

思わず笑みが浮かぶ。

「なあ、お前こそ。さっきまで一緒にいたやつは何処にいったんだろうな?」


お前を置いて逃げだす奴を、友とでも呼ぶのか?



「なあ、お前に友達っているのか?」


その言葉に逃げるように走っていくその背中。


友達という言葉はそんなに簡単に使っていい言葉じゃないんだ。


共にあの世界を生き抜いた僕たちにとってこの世界のそれはひどく薄っぺらいものに感じて。


「伊賀崎くん・・・。」

僕の笑い声を収めたのはの声。

呆れたように、でもその言葉に込められた感情は否定的ではなくて。


「数馬。僕たちだって友達だからな。忘れるな!」


まっすぐに人差し指を数馬に向けて言えば、その真ん丸な瞳が大きく見開かれて。



「忘れたりなんか、しないよ。」


ふにゃり、嬉しげに目元をゆがませた後、


涙を流した。



「藤内!数馬が泣き出した!どうしたらいい?!」


思いもしなかった数馬の行動に焦る焦る。

思わず藤内に助けを求めればぽかんとした後とてもとても楽しげに笑いだして

人ごとだと思って・・・!




「孫兵、大丈夫だよ。なあ、数馬。俺も、もう、忘れたりなんかしない。」





忘れない



その言葉が大きく胸に響く。

もう忘れないとそう言ってくれた。



数馬数馬。

ごめん。

ずっと君に任せきりでごめん。


まだ少し怖かったんだ。


知っている人たちから始めましてと言葉を返されるのが怖くてたまらなかったんだ。



だけど、



もう一度共に歩んでいきたいから。



怖がってばかりはいられない。


この世界でもう一度共に生きていきたいから。



これからは、共に。















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