ドリーム小説



記憶を辿って107  差し出されたその手はまるで希望のかけらのようで
















「ねえ、君、今暇?」


そんな使い古された様なうたい文句。

咄嗟に言い返すことができずぽかんとする。

目の前の少年はきらり、金色の髪を太陽に反射させながら笑う。


「暇だったら、さ。ちょっとお願いしたいことがあるんだけど。」


綺麗に笑うくせにどことなく猫のように人懐こそう。

そんな笑みには頷くことで答えた。






ちゃん、この髪はほかにどんな手入れをしてるの?」

後ろから髪をゆるりとかきあげられる。

首元に当たる、指がひやりとして気持ちがいい。

一つ一つ、まるで恋慕か何かを持たれているのかと錯覚しそうなほど、優しい手つきで彼はの髪を梳く。

「ええと、まあ、いろいろ・・・」

綺麗な髪だねえ。

うっとりとした声色は、確かにあの頃も幾度となく聞いたもの。

あの時も幾度かこうやって髪を梳いてもらったりしたことがあって。

ずっと昔、あの世界ではにとって髪しか手をかけられるところがなかった。

どちらかというと武道派であったは、ほかのくのいちたちが化粧品などに興味を持っていても、授業で使う必要最低限しかもっていなかった。

さらにはいたるところに傷を作り、あざを作り、していたにとって体というのは着飾るためのものではなく、自分が動くために必要なものとしてしか認識していなかった。

そんなが唯一手入れをしていたのが髪である。

というよりも、せめて髪くらいは綺麗にしておかなければ潜入の際の忍務が勤まらなかったのである。

あざやら傷やらは、おしろいなど化粧で隠すことができたが髪はどうしようもなかったからだ。

そして、そのたびに彼、斎藤タカ丸にはお世話になっていたのだ。



「斎藤さん。」

そっとその柔らかな手にゆだねていれば控え目に呼ばれた彼の名前。

見れば紫色のネクタイでタカ丸と同じ学年だと知る。

「この後教室が移動になった、とあなたのクラスの人が言ってましたので報告に。」

あの頃と同じ、生真面目な顔。

まっすぐな視線はを胡乱気に見ていて。

「ありがとう〜三木くん。」

呼び方に、心揺さぶられて。

そして、泣きそうになる。

ぐっと感情をこらえるように俯けばそっと再び触れ出したタカ丸の手。

「ちょっと待ってね?ちゃんの髪整えたらすぐに行くから。」

ふわりふわりあまりにも優しい手つきが心地よくて。



「不思議だねえ。なんか、ちゃんの髪。前にも触ったことがある気がしてきた。」

だからこそ、タカ丸からその言葉を聞いた時口に出してしまったのだ。


「だって、ずっと昔からタカ丸さんにはお世話になっていますから。」


言ってからしまった、と思いはしたが、いってしまったものは仕方がない。

ぴたりと止まったタカ丸に声をかけることもできず、固まる。

そっと視線を向けた先、大人しくタカ丸を待っていた三木エ門もきょとりと不思議そうな顔をしていて。




「ふふ、そっかあ。だから俺はこの髪をよく知ってるんだね?」


タカ丸から洩れた言葉はそんなあっさりとしたもの。


「じゃあ、きっと、三木くんもずっと前に会ったことがあるよ。」


だって懐かしいんだもん。

そう言いながら笑う彼


きょとんとしていた三木エ門はそれにふわり仕方がないなという風に笑った。


「僕も、懐かしいと感じることがよくありますよ。」


内容は何もわかっていないことだろうに、感覚だけで話して。


でもそんなほのぼのとした会話がほわりとの心を緩める。



「ようやくみつけたああ!!!!!!!!」


突然辺りに響いたのは鋭い声。

みれば綺麗な髪を振り乱しながら走ってくる滝夜叉丸の姿。

その襟元には紫色のネクタイは存在しない。


ずざあああ、と効果音と土煙を立てながら立ち止まった滝夜叉丸の表情には怒りが宿っていて。


「あれ?滝夜叉丸君だ。」

髪を整えながらタカ丸がつぶやくのが聞こえた。

「・・・。」

ちなみに三木エ門を見ればこれまた胡乱気な、というよりも嫌そうな表情だ。

「どうしたの?」

きょとりとタカ丸が尋ねた。

それにキッ、と鋭くさせてなぜかを見た。


!!!」


「・・・へ?」


鋭い声で名前を呼ばれて、思わず間抜けな声が漏れる。


「私のネクタイをさっさと返せ!」


「・・・あ」


全力で訴えられてびしりと伸ばされた手のひらを見てようやっと事態を飲み込む。


脳裏に浮かぶいつかの出来事。

あの時この手で奪ったネクタイは、未だにのかばんの中にある。


「忘れてたのか?!」

の小さな声に過剰なほどに反応する滝夜叉丸。

「いえいえ、そんなこと・・・」

「目をそらすな!」

若干忘れていたのは確かなので後ろめたくて目を背ければ追いかけてくる言葉。

「いっそのこと買ってるかと思ってました。」

ぽつりと漏らせばぐっといいよどむ滝夜叉丸。

「・・・買ってつけるたびに喜八郎に取られるんだ!」

そう叫ばれた言葉に今度はがきょとりとする。

「あ、れ?喜八郎って呼んでましたっけ・・・?」

「あの日からそう呼ばないとしばかれるんだ。・・・」

その言葉の後まっすぐにを見据える。

「さ、本当に返せ。」

差し出された手。


「なんだお前。突然現れておいて、年下の女子生徒にそんな口のきき方するのか?」



しかしその手に触れたのは思いもかけない人物だった。


















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