ドリーム小説



記憶を辿って110  僕の言葉が物語る




















斎藤タカ丸。

その人に会ったのは偶然。

廊下で迷っている金髪を見つけてなんとなしに声をかけた。

そうして始まった交流は、未だに緩やかに続いている。

年上だというのにそれを感じさせない同級生。

かと思えばふとした時にとても大人びて見える。

そんな不思議な人。


好きだとか嫌いだとかそう言う感情じゃくくれない、よくわからない人。




けれども彼のそばにいるのは不思議と心地よくて、気がつけばクラスも違うのにその姿を探していて。






今日も、そうだった。




確かにタカ丸さんのクラスの人に頼まれたからというのもあったけれど、彼を探していて。

そして見つけた先で中等部の女子生徒と楽しげに話すその姿に驚いた。

タカ丸さんは美容師の卵で、クラスでもよく女子生徒の髪を触ったりしていたけれど、どこか一線を引いていて。

なのに、どうしてか。



その女子生徒に向かってはとても自然な笑みを見せていたから。



そしてそんな彼女に僕自身も不思議な何かを感じたから。



「不思議だねえ。なんか、ちゃんの髪。前にも触ったことがある気がしてきた。」


柔らかく過ぎるその時間がなんだか心地よくて。

二人を眺めていればこぼされた言葉。


「だって、ずっと昔からタカ丸さんにはお世話になっていますから。」



続いて発せられた彼女の言葉にどくりと心臓が音を立てた。

しまった、というような表情をして見せた彼女は、でも何処となく期待を込めた瞳をしていて。



「ふふ、そっかあ。だから俺はこの髪をよく知ってるんだね?」


そう言われた言葉になきそうにわらった。


「じゃあ、きっと、三木くんもずっと前に会ったことがあるよ。」


そのままするりと向けられたタカ丸さんの視線と言葉。

驚きはしたけれど確かに感じだことのある感覚に、タカ丸さんの柔らかい笑顔に思わず苦笑する。



「僕も、懐かしいと感じることがよくありますよ。」



そう、まるで、遠い遠い昔からの親友のように、仲間のように。


つきり


小さく頭が痛んだ。


おかしなその痛みに一瞬顔をしかめたが、それは突如として現れたやつによって次の瞬間には記憶から消えていた。




「ようやくみつけたああ!!!!!!!!」




それは耳障りな雑音。

頭に響くキンキン声に眉をひそめれば現れたのは同学年の平滝夜叉丸とか云うやつだ。

友人でも知り合いでもないそれだというのに、なぜだろうか。

その姿を見ただけでイライラする。






謎の感情をもてあましながら平の行動を見ていれば、彼女に手を突き出し何かを返せと要求する。


それのせいで先ほどまでの温かな空間は失われて。


意味はわからなかったが、なぜか、すごく、いらりとした。



「なんだお前。突然現れておいて、年下の女子生徒にそんな口のきき方するのか?」



彼女に差し出された手の前に、平の視線から彼女を隠すように立てば怪訝そうな眼を向けられて。


ああ、なんだろうか。


すごくいら立つ。


そんな怪訝そうな瞳を向けられることも

お前は誰だという意味を込めた視線も


むかつく

むかつく

むかつく



「男の風上にも置けない奴だな。」






喉の奥から出る笑いはまるで嘲笑。

あざける相手は、目の前の平、なのか。


それとも___



「お前には関係ないだろうが。」

きっぱりあっさり切られた言葉。


それに、何とかこらえられていた感情が、せきを切ったように



溢れた



「っ、ほんっとうにお前はムカつく奴だな!!昔からっ!!」



そうお前は昔からムカつく奴だった。

僕ができないことを簡単にこなして見せて。

でもその裏では僕よりもずっとずっと努力もしていて。


何もせずにそれを手に入れていたただの天才であれば、もっとお前を貶めることだってできたのに。




ずきりずきり



頭が、痛い。


今、僕はいったい、何を言った?




「昔、から・・・?」





なんだそれは、昔からだと?

僕はこいつに初めて会ったというのに。

僕はこいつなど知らないというのに。



どうして、こいつを知っているのだ?



「私は、お前を知って・・・いる・・・?」


小さくつぶやかれた平の言葉。

思わずその目を見れば、ぐらり、既知感。


「し、らない、しらないぞっ。俺はお前のことなんか知らないっ!」


それが怖くなって、恐ろしくなって、言葉を発するのに。


自分の言葉だというのに、偽物みたいで。





「うん。ずっと昔から知ってるよ。滝夜叉丸も三木エ門も、タカ丸さんも。」




ゆっくりと僕たちのところに歩いてくる彼が発した言葉。

みたことのないはずの彼は、僕の記憶の中にしっかりと存在していて。

知らないはずのその名前を、僕は



とてもよく知っていた。







「久しぶりだね、三木エ門。」


どうして、どうして


これはいったい何だ。


頭が割れるように痛む。

それと同時に浮かび上がる景色。


「おま、え、は・・・」

お前の名前は綾部喜八郎。

あの場所で穴掘り小僧と呼ばれていた。


ぐらり


視界が回る。

よろけた僕を支えてくれたのは、知らないはずの彼女で。

この子のことも、知らないはず、なのに。


一度きりの記憶の中で、小さく存在していて。


混ざる混ざる

記憶が


揺れる揺れる


世界が


知らなかった記憶が


僕はいったい


僕は


ずっと隠れていた記憶が


誰?



溢れだす





「田村くん、」



呼ばれた名前。

僕の名前。

突然鮮明になった景色は、ゆるゆると記憶を落ち着かせるように。


僕を再構成するように。



僕は、田村三木エ門だ。




「ぼく、は、あいつら、を知って・・・いる・・・?」



ひときわ強い頭痛は、


「うん。私は、みんなをよおく知ってるよ。」



喜八郎の言葉によって止まって。




「ああ、久しぶり、だな。喜八郎。どうやら僕はいろんなことを忘れていたようだ。」





久しぶりの再会は、あの頃の記憶と共に訪れた。













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