ドリーム小説



記憶を辿って111  相も変わらず仲の悪い





















『一つ年は下ですが、今のあなたに私を捕まえられはしません。』


あの時あの場所で君が口にした言葉。


『取り返したかったら、私を捕まえてみてください。平滝夜叉丸先輩』




その言葉があったから私は今動くことができるの。




滝と一緒に廊下を歩いていれば窓の外を見ていた滝が突然大声をあげて。

なんだろうと思ってそちらを見たときにはもう滝はその場所に向かって走り出していた。

すぐに行動に移す滝のくせは昔から治らないなあと思いながら滝の方へ向かって私も歩き出した。





「おやまあ。」

滝と三木が二人で向かい合って睨みあっている。

それは過去何度も見てきたおなじみの光景。

その近くでほやほやとタカ丸さんが笑っているのもあの頃のまま。

その中にがいるのが見えてなんだかほおがゆるむ。


「なんだお前。突然現れておいて、年下の女子生徒にそんな口のきき方するのか?」

に向けられていた滝の手を三木が払う。

おやまあ。

相も変わらず仲が悪いんだねえ二人とも。

互いに心の中では尊敬し合っている癖に、どうしても正直になれない。

それはとても面白いことだから私自身口を挟みはしないけれど。


一つ二つ足を進めていけばより一層よく聞こえるようになっていく声。


「男の風上にも置けない奴だな。」


くつりと笑う三木にどことなく違和感。

まるで何かに焦るように、何かを恐れるように。

この世界で私と出会ったばかりの滝のよう。

「お前には関係ないだろうが。」


おやまあ。

滝、そんな言い方をしてはいけないよ?

そんなことを口にして、いつも一番傷つくのは滝自身なのに。


「っ、ほんっとうにお前はムカつく奴だな!!昔からっ!!」


ふんわり

三木から洩れた言葉。

それはなんら違和感なく私の中に浸透する。

まったく、滝も三木も本当に鈍い。

もうすぐそこまでわかっているはずなのに、最後の一つがわからない。


「昔、から・・・?」

滝の近くまで近付いていけば、恐れる瞳をもつ三木がいて。


「し、らない、しらないぞっ。俺はお前のことなんか知らないっ!」


そう叫んだ。


「うん。ずっと昔から知ってるよ。滝夜叉丸も三木エ門も、タカ丸さんも。」



本当に意地っ張り。

知ってるくせに、記憶がゆっくりと思い出せと叫んでいる癖に。

それなのに君はまったくもってそれに気づこうとしない。


利口なくせに、おかしなところでおしい人たち。


私を見た滝がため息をつくものだからその背中にのしかかる。

潰れたカエルのような声が聞こえたのは気のせいにしておこう。



「久しぶりだね、三木エ門。」

「おま、え、は・・・」

私を見て揺らぐ瞳がなんだか可愛い。

ぐらりとよろめいた三木をが支えてくれたのを見て視線をタカ丸さんに向ける。

「タカ丸さんも。」

私の言葉にゆるぎない笑顔を返してくれる。

「うん。そうだね。喜八郎君。久しぶり。」


その声があったかくて少しだけ、泣きそうになる。



「ぼく、は、あいつら、を知って・・・いる・・・?」


小さく本当に小さくこぼされたそれだったけれど、忍びとして鍛えられていたこの耳にはよく聞こえて。


「僕は、」

三木エ門の視線をまっすぐに見返す。。


かちり


視線がかちあう。


「うん。私は、みんなをよおく知ってるよ。」


ずうっとずうっと昔から。

ふわり、たぶん私はいま笑っているのだろうと思う。

だって、三木の瞳がふらりと揺れたから。

が優しく微笑んだから。


「久しぶり、だね。三木エ門。」



「ああ、久しぶり、だな。喜八郎。どうやら僕はいろんなことを忘れていたようだ。」



ほら、ようやっと私を思い出してくれた。












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