ドリーム小説
記憶を辿って113 謝るな、それがお前の望んだものなら
知らないままでいたかった。
そんなことを言えばきっと喜八郎は怒るのだろう
それでも、知らないままでいれたならばそれはどんなにか幸せだっただろうか。
この世界で喜八郎に初めて会った時、私はあいつが怖くて仕方がなかった。
今まで私が築いてきたものを壊す存在。
私が生きてきた世界を崩す存在。
そう感じていたから。
そしてそれは間違いではなく、喜八郎によって私の世界は色を変えた。
それがいいことなのか、悪いことなのか、今の私には理解できない。
先ほどまで私にのしかかっていた喜八郎がタカ丸さんと三木エ門のところへと歩いていく。
それと入れ替わるように近づいてくるのは、紫色のネクタイを手に持ったで。
「ごめんなさい」
まっすぐに私の目を見て、言い淀むことなく述べられる言葉に思わず目をそらしたくなった。
その手に持ったネクタイが腕と共にそっと私の首に回される。
首に微かに触れた冷たい手に咄嗟に距離を取ろうとすれが、目の前の瞳に魅せられるように動けなくなって。
「ごめんなさい。」
再び述べられた謝罪と共に後ろに回された手がそのままネクタイを辿って前に戻される。
「いらないことをしたと、そう思っていますか?」
私のネクタイを結ぶ手は白くて、そして微かに震えて見えた。
それた視線は私を見ることなく。
は私に答えを強制するでもなく言葉は続ける。
「それでも私は思い出してほしかったんです。」
彼女は思っていたよりも小さくて。
「喜八郎先輩がいつも泣きそうで、そんな表情見ていられなかったんです。」
ネクタイを結び終えてゆっくりと距離をとり私を見上げた。
「お前は、」
「ごめんなさい、嘘です。」
言葉を返そうとすればふにゃり、今度は泣きそうにそう言う。
「ごめんなさい。本当は私が耐えられなかっただけです。」
かちあっていた視線がふらり、揺れる。
「私が知っているのに、みんなが知らないということが、苦しくて苦しくて。」
迷う視線は、ただ自分を責めるように。
「だから自分の、ただの自己満足なんです。」
先ほどまで私のネクタイを結んでいた手が、ぎゅ、と握られるのが見えた。
「ごめんなさい。つらいことを思い出させてしまって、ごめんなさい。」
違う違う、そうじゃない
変化を恐れていたのは確かだけれど、それでも、この結果を不満に思っているわけじゃないんだ。
ただ、突然の変化が怖くて仕方がないだけで、あいつらに、もう一度会えたことは、それだけは後悔などしていないのだ!
告げたい言葉はたくさんあるのに、それは口から出てはくれなくて。
何も答えない私にふわり、笑ってがゆっくりと背を向ける。
「ごめんなさい」
違う、違う、謝ってほしいわけじゃないんだ!!
衝動に任せて思わず手を伸ばす。
つかんだ腕は思っていたよりもずっと細くて。
引き寄せたその体は、小さくて。
「謝るな」
背中から抱きしめるように腕を回す、
驚いた気配を四方から感じたが、それでもその手を離す気にはなれなくて。
微かに身をよじったその体をぐっと抑えるように力を込める。
「お前はそれが悪いことだと思ったのか?」
その言葉にぴたり、体を動かすのをやめたかと思えば、首を大きく横に振るものだからその幼い動作に思わず笑いが漏れた。
「ならば、謝るな。」
「思い出したことに戸惑いはあれど、私はこの記憶を後悔してなどいない。」
言葉を重ねれば、目の前の小さな体は震える。
「私はお前に___っ!?」
「滝のセクハラ。」
「お前というやつは・・・!」
さらに続けるはずだった言葉は、あっさりと第三者に邪魔をされた。
後ろからの衝撃と共に感じた痛み。
頭をぱしりとはたかれて。
「滝夜叉丸君、女の子泣かせるのは感心しないなあ。」
するりと捕えていたその小さな体は、あっさりとタカ丸さんによって放たれていた。
「・・・え?」
”泣かせる”その意味が一瞬理解できなくて、ゆっくりとみたの瞳は確かに滴で潤んでいて。
「っ、」
「滝、さいてー。」
とどめとばかりに放たれた喜八郎の言葉に言い返すことができなくて。
それでも、その皆の瞳に映る色は、とても鮮やかに色づいていて。
その奥、の瞳も柔らかく笑っていた。
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