ドリーム小説



記憶を辿って114  世界が綺麗に輝きだした

















「いい子だね、三治郎君は。」

「本当に。」




いい子。

幼きころから言われ続けたそれに、もうなれてしまったけれど。


べつに、好きな言葉じゃない。



「三治郎君・・・?ああ、あのこ!」

「いつもおとなしくて、手がかからない子ね。」




おとなしくて、手のかからない?

でも、覚えていてはくれないのでしょう?


記憶からさりげなく消されてしまうような、小さな存在。



「家でもおとなしいでしょう?」

「走り回るよりも、家の中で何かしている方が好きみたいなのよ。」




いい子でいても、いいことなんてなくて。

かと言って悪い子になるほどの度胸もない。



ねえ、知らないでしょう?


僕は本当は悪戯するの大好きだよ。

僕は本当はお絵かきより庭で走り回る方が好きなんだよ。




知らない、でしょう?

気づいて、くれないのでしょう?




ならいいよ。


僕は、もう、いい。


こうやって、殻をかぶって過ごしていれば、誰にも何も言われないし。

迷惑、かけることもないでしょう??



  『僕と一緒に、からくりつくろうよ。』


でも、ね、時おりよぎるこれは何?



  『三ちゃん!こんなの思いついたよ!』



ノイズが混じっていて、あわないチャンネル見たいなそれは。



  『三ちゃんとやると、はかどるんだよね〜。』


頭の中で何度もリピートされては記憶に埋もれて。




誰かわかんないけど、ねえ、これが夢ならば、いつか現実になることを祈っていたいんだ





光が、満ちるみたいに、君が現れることを







休み時間のざわざわとした喧騒の中。

次の授業の教科書を出しつつ、ため息を吐く。

学校は楽しい。

友人もできた。

勉強もついていけてる。



でも、相も変わらず何かが欠けたままで。



「夢前君、呼ばれてるよ。」


クラスの女子がそう言って僕を呼ぶ。

何事かと思ってそちらを見れば、ぱっつんにした前髪が特徴的な綺麗な男がいて。

それは僕を見た瞬間、楽しげにほおを緩ませる。


みたことないし、知らない人、のはずなのに。

それに反するように、心臓がどくどくと音を立てる。


血が逆流するみたいな興奮。


知らない知らない、今まで生きてきた中でこんな興奮は初めてで。



ゆっくりと、一歩一歩、僕へと向かって進められる足。


彼が一歩歩むたびに、きらきらきらきら、世界に光が溢れていく。


迷うことなく向けられたそのまっすぐな視線。


どうしようもなく、何かを叫びたい衝動にかられる。


ぴたり、あと一歩のその距離が、なんだかすごくもどかしくて。



「ねえ、夢前三治郎。」


どうして僕を知っているの?

君はだあれ?


聞きたいことはたくさんあったのに、尋ねるべきことは幾つも存在しているのに。


彼の声に、ただ思ったのは一つだけ。





ぼくはこのこをよおくしっている





ゆっくりと差し出される手。

伸ばされた腕は僕の目の前。


その表情は悪戯が成功するのを楽しみに待つように。


ふんわあり


とてもとても鮮やかに目の前の彼は笑った。





「僕と一緒にからくり、でもつくらない?」





それは世界が綺麗に輝きだした瞬間だった。

























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