ドリーム小説



記憶を辿って117  綺麗な手



















「大丈夫っ!?」

「すごく痛そう・・・!」


体育の時間。

ただのハードル走、だったはずなのに

僕の次の走者が、勢い余って転倒。

さらにはひざから大出血。


そこまでは、まだ良かったんだ。

ああ、痛そう。

ひどいけがみたいだなあ。

そんな、人ごとに見ていた、の、に。



あかいいろが、

真っ赤に染まる、そのいろが。

目に入った瞬間。



僕のてが赤く染まった。


それは相も変わらず僕にしか見えていない。


赤く染まった手が、錆びたにおいを醸し出す。


痛いわけじゃない、ただ、気持ちが悪い。

怖い怖い、恐ろしい。





皆が怪我した子に駆け寄るのを傍目に、僕だけ水道に足を向けた。



赤いそれを水で洗う。

水は赤く染まらない。

でも、この手は赤いままで。


「きもち、わるっ、い・・・」


ごしごしごしごし

洗っても洗っても、全く綺麗にならないそれが、気持ち悪くて、たまらなくて、


「そんなに、手が汚れているのか?」


不意に後ろから聞こえた声に思ったまま答えていた。


「手が、赤く染まっていて、消えないのっ!」


消えない赤が、その色が、ひどく鮮やかで。


ごしごし、ごしごし、消えないそれは、白くきれいな手のひらによって止められた。


「伊助の手は、綺麗だよ。」

「・・・え、」


耳元で小さくつぶやかれたそれに、理解が追いついてくれない。




「大丈夫。伊助の手は、とても綺麗だよ。」




 『伊助の手は、とてもきれいだね。』

 『そんなことないよ。家で染めるの手伝ったりとかしてるから、すごく荒れてるし・・・』

 『ううん。すごく、綺麗。だって伊助の手は何かを作り出すことができるんだよ?とても綺麗な手だ。』



瞬時に浮かんだそれ。

共にいた、彼は、彼の名前は___


「っ、庄ちゃんっ!?」


振り向いた先、先ほどまで確かにそこにいた人は、何の痕跡も残さぬまま、姿を消していて。



浮かんだ記憶はずっと、ずっと昔のもの。


僕のこの手の赤は、人の生を奪った証。



でも、つらいとかそんな感情より何よりも、


庄ちゃんが、今ここにいたかもしれないという事実に喜びが勝っていて。




「あ、れ・・・?もしかして、伊助?」

再び背後からかけられた声に慌てて振り向く。


「きり、まる・・・?」


そこにいたのはさっき見た記憶の中で共に学んだ仲間。


「っ、覚えて、るのかっ、!?」


一瞬見せた驚きは、すぐさま喜びに変わる。


「ううん、ちがう。今、思い出したよ。」


あの時あの世界で、共に過ごした日々のことを。



「久しぶり、きり丸」





この手の赤は、いまだ見えるけれど、でも、君が綺麗と言ってくれたのだから、



僕はそれを信じたい。




















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