ドリーム小説
記憶を辿って12 そらされた視線
「あ、。」
「・・・次屋君」
四時間目も終わり、さあ食事の時間だと皆がざわざわと動き出した昼休み。
もそれに漏れず食堂へと向かい歩き出した。
以前一度話しただけだというのに、何の気兼ねなしに近づいてきて三之助は言った。
「また迷子か?」
残念ながら以前のできことのせいでは迷子と認識されてしまったようだ。
「いえ、迷子じゃないですよ。これから食堂に行くところです。次屋君は?」
やんわりとでもしっかりと迷子を訂正しながら自分の要件を答える。
するとぐい、と引っ張られた手。
何ですか?そう声を上げようとしたけれどその顔を見上げた瞬間、言葉は喉につっかえた。
「俺も一緒。」
見上げた君がそんなに悲しげな顔をしているとは思わなかったの。
「なんかな、何か足りない気がするんだ。」
食堂への廊下の途中、つないだ手を振りながら三之助はそう言った。
「こうやって、誰かが俺の手を、握ってくれてた。そんな気がすんだけどな」
ぎゅう、と胸の奥が痛んだ。
私なんかが覚えていても、意味がないのに。
これは彼らが覚えているべきものであったのに。
でも、三之助も、左門も、何かしら違和感を感じている。
ならば可能性は
ある
引き合わせて
そうして
「?」
食堂の入口に着いた時、中から出てきた少年に声をかけられた。
見ればそこにはまさかの人物で。
「富松君。」
その名前を口にした瞬間、握っていた三之助の手が痛いくらいに握りしめられた。
「もう食べ終わったの?」
三之助の手をにできる精一杯で握り返す。
そうしないと、三之助がこの場所から逃げ出してしまいそうで。
逃げないで、逃げないで
お願い
「いや、今日は飲み物買いに来ただけだから。」
そういって、ちらり、確かに作兵衛は三之助を見た。
でも
その視線は自然に外されて。
じゃあ、その言葉をに掛けただけで作兵衛は去って行った。
三之助の名前など一度もよぶこともなく
握りしめていた三之助の手から力が抜けた。
慌てて三之助を見上げればぼおっとした瞳で作兵衛が去って行った廊下を眺めていて。
「次屋、くん、」
その名前を呼ぶだけで精いっぱいだった。
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