ドリーム小説



記憶を辿って121  変わらぬ姿














手を、二郭に捕まれて、動けなくて。

周りの皆からの視線が、重くて。


ああもう



本当に面倒で仕方がない




「確かに、もってるよ。あの時の記憶。」



ゆっくりと口を開けば、微かにざわめく。


「じゃあ、庄ちゃん__」

「でも、それがなに?」

稲名寺の言葉を遮って、言う。

ゆるり、視線を向ければびくり体を震わせた。



「確かに持ってるこの記憶。だけど、それは僕じゃない。僕のものじゃない。」

掴まれていた手が微かに緩んだ。

それを振り払う。


「じゃあ、僕はこれから用事があるから。」


にっこり。


笑って見せればもうだれも動かない。


「さよなら」


最後にその言葉を落として歩み出す。



「「庄左エ門っ!」」

歩み出したはずなのに。


両腕が温かい。

後ろからの衝撃と共に現れたそれは、ぎゅうぎゅうと痛いくらいにしがみついてくる。


「・・・まだ、なにか?」


右と左にいる福富と山村にため息とともに声をかける。

けれども返事はなくて。


「にげるのか?」

ひたり、目の前に立ちふさがるのはがたいがいい佐竹。

そしてぱっつんが印象的な笹山。


「庄ちゃん。その記憶から逃げたいんだ?」


にやり、挑発的なその笑み。

いらりとはするけれど、構うほどのものではない。


「逃げる?意味がわからないね。僕はただの僕だよ。なぜかあの時の記憶を持ったままこの場所にいるだけの黒木庄左エ門だ。」


「その記憶に背中を向けて?そしてどうするのさ。」


「これから先、たったひとりで生きていくわけ?」

「どうせ庄左のことだから、うまく笑ってごまかして、そうして生きてきたんだろ?」


「なんで、僕たちを認めてくれないの?!」

ぎゅう、と右隣の福富が、叫ぶ。


「庄ちゃん、僕たちを見てよ!」


左隣の山村も泣きそうに声をあげた。



ああもう意味がわからない。


どうしてこいつらは僕に固執する?


うるさいうるさいうるさいっ!!


庄ちゃん庄ちゃん、それは、どうせ僕のことじゃないじゃないか!!!


今の僕のことをなんにも知らない癖にっ!!!!!!!!



ああ、もうっ!!!




「いかげんにしてくれっ!!」




左右の熱がうっとうしい。

目の前に立つやつらも、僕の後ろに立ち尽くしてるやつらも、うっとうしくて仕方がないっ!!



「この覚えている記憶が、今の僕である証拠などないだろうが!!」


「今の僕のことを知らないくせに、うるさい!」


僕が上げた声に、一度ぽかんとして見せた彼ら。

ほらみたことか。

あの時ずっと冷静だ冷静だと言われ続けていた僕は、どこにもいないだろう?!



「くっ」


微かにもらされたそれは次第に笑い声に姿を変える。



「あっはっはっ!!」

「もうその怒り方なんてそっくりだよ!庄ちゃん!」

「あの時だって、こらえきれなくなったらそうやって叫んでさ!」


僕が起こっているにもかかわらず、こいつらは好き勝手に言葉を紡ぐ。


「なん、なんだよ、もう・・・」

なんだかいろんなことがもう嫌になってその場にへたり込む。

周りの笑い声に持呆れて何も言えなくて。


「何も変わってないんだよ庄ちゃん。」

ふわり、降ってくるのは柔らかな声。


この記憶と変わらない声。




「僕の手を綺麗だと言ってくれた君は何一つ変わってないんだ。」



伸ばされた手。

それを今度こそためらいなくつかみたいと思ってしまった。



「庄左エ門。あの時と変わったのはひとつだけよ。」


顔をあげれば金吾が、ふわり、笑っていて。


「この世界では自分を殺さなくていい。誰も、殺さなくていい。自分の思うとおりに生きていける。」

虎若が目の前に座り込んでそう言った。


次いで楽しげに声を上げるきり丸に目を合わせれば、にかり、太陽のように笑みを返された。




「つまり、この世界で俺たちは今度こそ最後まで一緒に生きていけるんだ!」




その言葉は、頑なにこわばっていた僕の心をどろどろに、甘やかすかのように溶かした。






「まったく、お前らはどんだけ時が過ぎようとかわんないんだね。」




いつどこでどのようにしてあっていても、きっとこいつらは僕を探し出すのだろう。


そして今と同じようにう笑って手を差し出すのだろう。




「ただいま、みんな。」




どうしようもなく大切で大事でかけがえのない、僕の仲間たちは。








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