ドリーム小説



記憶を辿って123  会えなかった分を埋めるように















「まったく、本当に庄は三郎に似ちゃったねえ。」

後輩たちの必死な様子を近くの木の上から眺めていれば勘右衛門のそんな声。

横を見れば楽しげに頬を緩ませる勘右衛門。

「だな。」

を挟んだ反対側。

大口を開けて笑いながら同意するのは八左エ門で。

皆の眼は柔らかく、懐かしげで。

そしてとても温かい。


「悪かったな。だが庄は俺に似たが彦はお前にそっくりだろうが勘右衛門。んで、八左に笑われるとムカつく。」


の上の木に潜んでいる三郎がふてくされた声を出す。

「そうだな。確かに彦は俺に似て賢い。」

楽しげに返されたそれに上からはため息。

「三郎、いつも思うがお前俺にきついよな。」

ちなみに八左エ門の言葉には返事すらしていない。


「でも、みんな元気そうでよかった・・・。」

下から聞こえてきたのは穏やかな声。

雷蔵のその言葉に、誰もが静かに頷いた。


「本当にそうだね。」


勘右衛門がまるで眩しいものを見るかのように目を眇めて言葉を放つ。

「それに相変わらず仲がいいな。」

八左エ門の声も柔らかく辺りに広がる。

と、



ズザザザザ___

そんな効果音がの下、雷蔵の横から響いて。

誰もが認識するよりもずっと早く、今まで一言も話さず黙っていた彼は、

何一つ躊躇などすることなく、木から飛び降りて



「いすけ、」


「え・・・?」


小さな体に飛びついた。






「え、え、ええええ??!」


慌てふためいた声が辺りに響く。

ぎゅうぎゅうと縋るように兵助は伊助に抱きつき言葉を紡ぐ。

「元気そうで良かった。」

「兵助、先輩?本当に?」

ぎゅう、と伊助も同じように兵助に抱きつき返す。

「ええと、・・・」

「・・・まったく、何も話さないと思ったら・・・」

「どうやって登場しようかと考えていたというのに。」

「あはははは、さすが兵助!」


「さて、僕も行こうかな。」

がどうしたらいいのか、突然の動きについていけずぽかりとした声をもらす。

八左エ門が額に手をあててため息をつきながら声を上げる。

三郎は呆れたように、先を越されたことを怨むかのように。

勘右衛門は楽しそうに笑っていて。

そして雷蔵がふわり、楽しげに笑って、兵助に続くように木から下りた。


「っ、らいぞうせんぱい・・・?」


ふわり降り立って目の前、その切れ長の目をめい一杯開いてきり丸が雷蔵の名を呼ぶ。

「うん。久しぶりだね、きり丸。元気にしてた?」

触れることを躊躇するように一歩後ずさったきり丸に雷蔵はふわり、安心させるように微笑んで。


「ほら、おいで。」



柔らかな声色は、まるで恐怖全てを溶かすかのように、じんわりと辺りに広がって。

泣きそうになりながらきり丸は雷蔵の広げた手の中に飛び込んだ。


「しんべエ、乱太郎もほら。」

きり丸の後ろ、きり丸を支えるように立っていた二人にも雷蔵は優しく笑いかけて。

乱太郎は困ったように笑って、しんべエはとろけるように笑った。







「虎若、三治郎!」

皆が皆驚いている中に遠慮なく飛び降りたのは八左エ門。

太陽みたいな明るい笑みを顔いっぱいに浮かべて、虎若と三治郎を、そしてその近くにたまたまいただけの団蔵と喜三太をも抱きしめた。

「わ!?」

「八左エ門先輩っ!?」

「ほにゃあ〜?」

「うわっ!?」


ぎゅうぎゅうとめいいっぱいの愛情を与えるかのように、今まで離れていた時間を埋めるかのように。


「虎若、三治郎、団蔵、喜三太!また会えて、すごくうれしいぞ」


その言葉に四人はふにゃり、泣きそうに笑って答えた。

「お久しぶりです〜」

「僕たちだって、すごくうれしいですよ」

「お元気そうでなによりです」

「もっと早く見つけてくださいよ。」










「庄は本当に三郎に似ちゃったねえ。」

ころころと楽しげに勘右衛門が言葉を紡ぐ。

「・・・それは、ちょっと全く嬉しくないですね・・・。」

目の前の庄左エ門は困ったように言葉を返す。

「庄お前言うようになったな・・・。」

三郎は庄左エ門の言葉に、ぴしりと音を立てて固まった。

「お二方ともお元気そうでなによりです。」

見事に三郎の言葉をスルーしながら庄左エ門は言葉を続ける。

「うん、庄も元気そうでよかったよ。」

くしゃり、三郎が言葉の代わりに庄左エ門の頭を優しく撫でればまるで猫のように目を細める。

「先輩方の教えのおかげで、俺はあの世界で無事に生きていくことができていました。・・・ありがとうございます。」

それに勘右衛門が、三郎が、驚きの表情を見せて、そして笑った。


「俺たちも、君たちがいたからあの世界で必死に生きていけたんだ。」

「私たちの方こそ、ありがとうな。」












皆が皆、大事な後輩に手を差し伸べて、抱きしめて。

その光景がひどく遠いことのように思えて。

そんなことはないのにひどく疎外感。


可愛い可愛い後輩たちをずっと思い続けてきた先輩たち。

あの時の世界のくのたまの後輩も先輩も、はこの世界で未だ出会うことがなく。

さらに言えば出会える気もしないままで。


思い出してほしい。


こんな風に一人、皆を眺めていれば自分で決めたことなのに、未だに迷いが浮かんで。


本当に、のしていることは間違っていないの?


孫兵に、三郎に、言われた言葉は未だにずきりずきりと存在を主張していて。

痛い。



先輩。」

ぼおっとそんなことを思いながら彼らを眺めていれば呼ばれた名前。

ふ、と声の方向に目を向ければ、二人の小さな影。

「降りてきてくださいよ。」

兵太夫がそう言えば、金吾もを手招きして。


すたり


微かな音だけを立てて降り立てば、そっと、目の前の二人が手を伸ばしてきて。


「ありがとうございます。」


まるで先ほどまでのの迷いを断ち切るかのように。

「あなたのおかげで俺は動き出せたんです。」

金吾がふにゃり、泣きそうに言う。


「あの時の言葉がなければ、俺はきり丸に声をかけることなんてできなかった。」


だから、そう言った金吾の目の端には小さな滴が見て取れて。


「お節介。」

ぽつり、兵太夫からもらされたそれに、背筋が凍りそうになった。

けれども

「だけど、感謝してるよ。」


意地悪そうににやりと笑ったその表情に、空気は和らいで。


「私の方こそ、ありがとう。思い出してくれて。」


そう言えば、不意をつかれたように二人がきょとりとする。


年相応のそんな表情が可愛くて、愛しくて。


私の想いを否定しないでくれてありがとう。

私の想いを認めてくれてありがとう。


私を、その瞳にうつしてくれて、名まえを呼んでくれて、ありがとう。


言いたいことはたくさんあるのだけれど、それはどれも言葉にしては陳腐なもののように思えて。

未だに不思議そうな表情を見せる二人にふわり、笑って見せた。












back/ next
戻る