ドリーム小説
記憶を辿って130 失われていた時間
「お邪魔します。」
「うん、いらっしゃい!能勢!」
川西と池田とは一人方向が違うから、一足先に来た時友の家。
インターホンを鳴らせば、すこし間をあけて開くドア。
そして顔をのぞかせたきらきらした笑顔。
ふわふわとした髪が柔らかく跳ねる。
温かな出迎えの言葉にとくんと胸が小さく音を立てた。
そして、心の中、小さな予感が走った。
何か懐かしいものに出会えるような、謎の違和感をぬぐえるような。
自分を見つけられるような。
そんな、予感。
お土産と称して渡したケーキ。
確かこいつは甘いものが好きだったはずで。
その情報をどこで入手したのかは覚えていない。
一緒に昼を食べるうちに把握したのだと思う。
とろけそうなくらいほおを緩ませて、まるで周りに花を飛ばすように喜ぶ時友に笑みが漏れる。
まったく、本当にこいつは変わらない。
・・・かわら、ない・・・?
何が?
いったい、なにが?
「一緒に何飲む??紅茶かなあ、それともコーヒー?」
深みにはまっていきそうな思考を止めたのは、もちろん時友。
まだ川西と池田が来ていないにもかかわらずうきうきと用意をしていく。
・・・まあ、いいか。
こいつといると、自分の思考回路すらなんだかしょうもないように思えて。
「俺は何でも飲めるから何でもいいぞ?でも川西たちが来てからにしておけよ。」
ふわふわのその頭に手を乗っけてぐしゃぐしゃとかき混ぜてやる。
ぱっ、と驚いたように見上げてきたその大きな瞳。
ぱちくりと瞬いてふにゃり、笑う。
「僕の部屋、二階のつきあたり。先上がってて?」
笑うくせに、どこか泣きそうに時友はいう。
手伝おうかと声をかけるつもりだったのに、ぐいぐいと思ったよりも強く背中を押される。
「先に、いってて。」
念を押すように言葉を重ねるものだからその通りにしないわけにはいかなくなって。
「・・・変な奴。」
がしがしと頭をかいて、告げられた部屋へと向かう。
がちゃり
いわれたドアを開けた先、誰もいないと思っていたその場所にいたのは四つの誰か。
「能勢、久作先輩。」
呼ばれた自分の名前
「っ、誰、だよお前ら・・・?」
がんがんと痛みではなく衝撃を訴える頭。
心臓が期待するみたいに大きく音を立てて
「忘れないでくださいよ、久作先輩」
むっとしたように、さっきの時友と同じように、泣きそうに目の前の彼が眉を寄せる。
ぐっと目の前まで近付いたまっすぐな瞳。
真黒な綺麗な色が、かちり、まるで何かがはまるような音。
視たことのないはずの面々
なのに
知らないはずの世界が、
知らなかったはずの世界が
失われていた時間が
ぶわり
よみがえった
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