ドリーム小説


記憶を辿って131 くしゃりと頭をなでて














扉に向かい小さく震えた手。

それを握ったのはさっき俺が引き寄せた先輩で。


行ってらっしゃい

行ってきます


そんな小さなやり取り


でもそれは何よりも時友先輩が望んでいたもので。

がちゃりとしまった扉を心配げにみる先輩。

金吾も乱太郎もそんな先輩を心配そうに見ていて。


さっき、抱えあげた体は本当に小さくて軽くて、柔らかくて。


でも、俺も金吾も乱太郎も、みんなみんな、この人に助けられてここにたどり着いた。

そしてきっと時友先輩もこれから彼女に救われて。



嬉しいはずのそれなのに、心臓がぎゅう、と痛い音を立てる。



一番に見つけたのは俺のはずなのに、どんどん離れていく先輩がなんだか、ずるい。





がちゃり


再び開かれた扉の向こう。

そこにいたのは銀色のふわふわではなくて。


俺の、あの世界での、大事な、大切な、





「能勢、久作先輩」




驚くというよりも、俺の姿に恐怖するように顔を歪めて。


距離をとるように後ずさる。


むっとする。


俺のことを覚えてくれていないことよりも、その記憶を拒否するかのような姿勢に。



ぐっと、距離を詰めて、まっすぐにその瞳を覗き込む。


かちり、まるで時計の針が合うかのように



視線が


かちあう




きらり


一瞬の瞬きの後生まれた光は、俺を確かに映し出して



ぼろり、ひとつこぼれた涙に、こちらも泣きそうになって笑った。


「久しぶり、だなきり丸。遅くなって悪かった。」


くしゃり、撫でられた頭が、あったかくて今度こそ本当に泣きそうだ。


「ほんとうに、おそいっすよ先輩。」


ほわりほわり


生まれたあったかい気持ちが、どうしようもなくうれしい。




「乱太郎も、金吾も、久しぶりだな。」


「お久しぶりです!能勢先輩!」

「お久しぶりです。」


目顔の奥が柔らかく彩られる

金吾がきっちりと姿勢を正して頭を下げる。



久作先輩の視線が、先輩に向く。


「・・・ええ、と?」


誰だったけ?そんな感じで頭を傾げた先輩にふわり、先輩が笑う。

「始めまして。能勢、久作君。私はです。もと、くのたまです。よろしくお願いします。」


「あ、ああ。こちらこそ。」



がちゃり、三度目に開いた扉の奥。


そっと顔をのぞかせた銀色にくしゃり、久作先輩がとても申し訳なさそうに、それでも嬉しそうに笑った


「ごめんな、遅くなった。四郎兵衛。」


その言葉に時友先輩がふにゃり顔をゆがませて笑い返した。













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