ドリーム小説
記憶を辿って132 嬉しいのに悲しい
「・・・一体何と戦ってきたんだ?」
池田が僕の恰好を見た一言目がそれだった。
池田との待ち合わせ場所。
遅れないようにと1時間は早く着く時間に家を出たにもかかわらず、ついたのは待ち合わせ3分前。
おかしい、ふざけてる。
そんなこと自分でわかっていて、もうどうしようもないことだと結構昔にあきらめてもいた。
僕を見た瞬間、おそらく挨拶をするためであろう開いた口はぽかりと開いたまま、上から下へと視線をうろうろ。
そして、冒頭に戻る。
確かに体のいたるところがどろだらけなのだ。
来る途中にこけたり、なぜか犬に追いかけられたり。
あっちこっち慌てて逃げてるうちに道に迷ったり。
しかもそれが池田と合流してからも続くのだ。
やってられない。
おかげで時友の家に向かうのすら遅れてしまって。
「ごめん、僕のせいで・・・」
ようやっと見えてきた時友の家がなんだかひどく輝いて見えた。
「いや、別にお前が悪いわけじゃないだろう。」
ぽつり、僕の謝罪に返されたのはそんな言葉。
恥ずかしいのかそっぽを向いているその姿は、とてもとても彼らしいなあと感じた。
ピンポン
そんな軽い音と共に家の中からとたとたと音が聞こえてくる。
がちゃり、開けられた先、きらきら、今まで以上に輝いて見える笑顔があった。
「いらっしゃい!池田、川西!」
白いほわほわとした髪が、なぜかいつもよりもずっとずっと嬉しそうにはねていて。
全身で嬉しいと、喜びを表現しているように見える。
まるでいつもの時友とは別人のようで。
「・・・、川西、誰と戦ってきたの??」
でも、そんなことをいうものだから、そんな感覚はすぐに消え失せた。
「いや、まあ、色々巻き込まれただけだから、気にするな。」
若干遠くを見ればまるで納得したように時友が苦笑いしていて。
「川西、中にはいったら手当てしようね。さ、池田も入って?」
僕らを迎え入れるために大きく開かれた扉。
おじゃまします。
そんな言葉と共に足を踏み出す。
「四郎兵衛、川西たち来たのか?」
ひょこり、そんな音を立てながら階段の上から顔を出したのは能勢。
けどその言葉に既視感。
能勢って時友のこと名字で呼んでなかったっけ?
でも、なぜかその呼び名は不可解なほど馴染んで聞こえて。
「うん、二人とも来たよ〜。あ、久作。」
久作
時友も能勢のことをそう呼んで。
まって、まって?
いつからそう言う風に呼び合っていたっけ?
始めて聞くはずのその呼び方なのに。
なんでこんなにも心地いいんだ?
意味がわからない。
「川西が、怪我してるみたいなんだ。だから___」
時友が階段の上にいる能勢にそう声をかけた瞬間、
がたがたと能勢の方から聞こえてきた音。
まるで誰かが急いで立ち上がって、そしてこけたようなそんな音。
ぎょっとして能勢の方を見れば能勢自身も自分の後方を見ていて。
何があったのか、そう問うつもりだったのに。
「っ、左近先輩っ!」
突然現れた眼鏡の少年の姿を目にした瞬間、言葉が喉に張り付いたようにでなくなった。
「乱太郎、」
時友が困ったようにその眼鏡の子の名前を呼ぶ。
ああ、確かにそんな名前だった。
知らなかったけど、知っていた。
乱太郎の表情は泣きそうで、困ったようで。
「左近先輩、怪我どこですかっ!?」
慌てながら能勢を通り過ぎ、階段に足をかける。
駄目だろうが、そんなに急いだら、お前のことだからきっと___
「っわ、」
「乱太郎?!」
「あらら、」
よぎった予感。
それは全く裏切られることなく現実のものとなって。
僕に降り注ぐ。
「っどぅわっっ!!??」
別に助けようとか思ったわけでもない。
僕が階段の一番近くにいたわけでもない。
だというのに、彼は、乱太郎は寸分たがいもせず僕の上へと着地する。
体中に走った痛みよりも先にその温もりをしっかりと抱きしめなければという感覚に陥って。
ぎゅっと包んだその温もりは、確かに、そこにあって。
「っ、ごめんなさいっ!!左近先輩っ!どこか怪我しませんでしたか!?」
すぐそばで慌てた声が上がる。
とりあえず思いから下りてほしい、そう思うのだけれども、
それよりも何よりも、気づいたことがあって。
「ちょ、え、ちょ、は?・・・まじで?」
ぽろり、こぼした言葉に、きょとり、僕の上に乗っかったまま首をかしげる乱太郎。
「えぇぇぇぇぇ・・・」
目の前のその存在を、今の今まで知らなかったはずなのに、でも、知っていたことに気がついて。
稲名寺乱太郎。
困ったことにフルネームまでちゃんと知っているものだから。
「左近先輩・・・?」
どこか頭でも打ちましたか?
恐る恐るそんな言葉をかけてくるものだから盛大なため息が出る。
「はあああああぁぁぁぁ・・・。」
おろおろとどうすればいいのかと右往左往する乱太郎。
だからもう、いい加減に下りてくれ。
「乱太郎重い。さっさと降りろ。」
口に出したらさらに気がつく。
その名前を自分は何度も何度も呼でいたじゃないかと。
「っ、もしか、して、左近先輩、僕のこと・・・!?」
「ああもう!なんで思い出しちゃったんだろうっ!!」
慌てて降りた乱太郎をよそに横たわったままで目元を手で覆う。
そうしてもう一つ気がついたんだ。
「つまりどんだけ時が流れても、この体質治らないんじゃんかっ!」
叫んだその言葉に、ぽかりとしていた乱太郎はけらけらと笑いだすし。
「まあ、左近。今さら何だから最後まで付き合いなよ?」
四郎兵衛は人ごとのようにそんなことを言うし。
「あ、左近先輩に三郎次先輩だ。」
「お久しぶりっす。」
「大丈夫?乱太郎君。」
まだまだ奥からぞろぞろと出てくるしっ!!
「さて、あとはお前だけだぞ?三郎次。」
久作の声にようやっと今まで黙っていた三郎次へと視線を向けた。
「なんだよ、お前らいったい何なんだよっ!!」
そしてぶつけられた感情に笑いそうになった。
だってそれはいままでの僕だったから。
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