ドリーム小説
記憶を辿って133 意味がわからない、どうしたらいいのかも
でも、ただ一つだけ思うことがあったんだ
お願いだから、僕だけおいていかないで。
忘れてしまっているんだろう?
僕は何か、大事なものをどこかにおいてきてしまっているんだろう?
でも、それしかわからないんだ。
何をおいてきてしまったのか、僕たちの間に何があったのか。
後一つ、何かがピースがはまればきっと思い出せるんだ。
だから、お願いだから置いていくな
目の前で楽しげに笑いあう彼ら。
さっきまで川西と僕と同じように怪訝そうな顔をしていたというのに。
あまりの変わりように頭がついていかない。
意味がわからない意味が理解できない。
なあ、いつからお前たちは名前で呼び合っていた?
いつからお前たちはそんなにも鮮やかに笑っていた?
ゆっくりと、でも確かに向けられる視線。
川西のまっすぐなその瞳が僕を射抜く。
「なんだよ、お前らいったい何なんだよっ!!」
ぐちゃぐちゃになった頭はその状況を上手に処理してはくれなくて。
口から出たのは叫ぶような言葉。
投げつけるようなその声に、ぴたり、その場の声が止む。
「三郎次、先輩・・・」
小さく呼ばれる自分の名前。
呼ばれ慣れないそれ
のはずなのに、じわり耳になじむのがまた苛立ちを増加させて。
僕の名前を呼んだ眼鏡を思い切り睨みつける。
「っ、誰だよお前ら!」
眼鏡は少しだけ息をつめて、釣り目の少年を見る。
「相も変わらず、言い方がきついんっすよ、三郎次先輩は。」
呆れたようにそんなことを言われて、お前たちとは初めて会ったはずだろう!?
なのになんで、なんでっ
「池田三郎次君。」
凛と、響く声。
それは静かに、ゆるりと耳に入る。
いら立ってばかりいた感情がほんの少しだけ緩和されるような感覚。
僕を呼んだのは、みたことのない、女子。
制服でもないから学年すら分からない彼女はただ、まっすぐと僕を見ていて。
一歩一歩、僕に近づくように階段を下りてくる。
「始めまして。私は中等部三年のといいます。」
ふわり、微かに上がる口端が、ささくれ立った心をゆるりと溶かすかのように。
「これからよろしくね?」
差し出された手。
微かに傾けられた首。
さらりと零れた髪が、ふわり、舞う。
この場所で唯一、先ほどから感じる気持ち悪さを感じない。
本当に本当に、初めて会ったような感覚。
「ほら、三郎次。先輩が手出してるんだから握らなきゃ。」
ひょこり、そんな効果音と共に時友に握られた僕の手。
くっ、と引かれたかと思えば温もり。
「何呆けてるんだ?ほら、僕等を見ろ。」
くしゃり、僕よりも背の高い能勢が僕の髪をかき回す。
「まったく。そんなところまで頑固にならなくてもいいんだよ。三郎次。」
未だに座り込んだまま、川西が僕を見上げてくつりと笑う。
わけがわからないのに、どうしようもなく、くるしいのに、溢れる感情は
むかついているそれは、怒りではあるけれど、
それはどうやら目の前のこいつらに向けられたものじゃなくて、思い出せない自分自身に。
それをぽいと放り出せば、答えは__
うれしい
「っ、」
「わ、」
その感情に行き当たった瞬間、体が勝手に逃げ出した。
掴まれていた手を振り払い、頭に載っていた手を振り落とし、向けられる視線から逃げるように方向転換。
後、しまっていたドアを体当たりするように開け放ち___
ごん
その逃走劇はあっという間に終わりを迎えた。
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