ドリーム小説
記憶を辿って137 すごくスリル
「じゃあ明日一緒に会いに行こう?」
の言葉に皆が泣きそうに笑って頷いた。
まだ皆が四郎兵衛の家に滞在すると言うことでは一足先に駅に向かっていた。
用事があったというわけではなく、過去ではあまり交流のなかったがいてもいたたまれない気がして。
向かった駅前ではみたことのある後ろ姿を目にする。
ふわふわとした笑みを浮かべながら歩く二つの小さな影。
それは確か一年のしんべェと喜三太で。
話しかけるかどうか、しばし瞬時。
と、
「すっごいスリル〜・・・」
突然後ろから聞こえてきた声。
あわてて振り向けばそこには先ほどの二人と同じくらいの小さな二つの影。
「え、えと・・・」
少し悪い顔色は、彼らの個性のようにその場所に存在していて。
まっすぐに見上げてくるその瞳は真っ暗ででも、くりくりとしていて。
「ねえ、お姉さん。すっごいスリル、ですよね?」
その視線が余りにも強くて、息をのむ。
いつだったか聞いたことのあるようなその口調。
にんまり、そんな言葉が似合いそうにその子は笑う。
「そうは、思いませんか?先輩。」
にとってこの世界でおそらく初めてであるこの子との出会いはあっけなく名前を呼ばれることで覆されて。
「ちょっと、伏木蔵・・・やめとこうよ・・・」
思わず口をつぐんだをかばうかのようにもう一人の少年が割ってはいる。
そしてその名前を確かに聞いたことがあると実感。
「平太は黙っててぇ〜」
楽しそうに、でもきっぱりと平太の言葉を止める伏木蔵。
「ねえ、先輩も、そう思いますよねえ?」
平太があわあわと視線の端であわてているのが見える。
目の前の伏木蔵の瞳は挑発的にを見ていて。
確証はなかったけれど、楽しそうに笑うその表情はつまりはそういうことなのだろう。
「そうだね、覚えているのかどうか分からないのに声をかけるのはすごくスリルなことだよね。伏木蔵君」
そっと手を伸ばして頭をなでれば猫のように気持ちよさそうに表情をゆるめる伏木蔵。
かすかな記憶をたどれば、幾度となくお世話になった保健室でその部屋の片隅にそっと小さく存在していたのがこの伏木蔵で。
「平太君、だったっけ?」
伏木蔵の横でおろおろとしている彼の名前を呼ぶ。
ぴたりと動き回っていた視線を止めて、ゆっくりとを見上げる。
「覚えてるんだ?」
問えば再びゆるりとさまよった視線が地面にたどり着きこくりと一つ頷きが返ってくる。
「はじめは、覚えてなかった、です・・・。ただ中学には行って、伏木蔵と孫次郎と怪士丸にあった瞬間、ぱっ、て思いだし、ました・・・。」
そっと吐き出すように告げられたそれに、思わず笑みがこぼれる。
「思い出したこと、嫌だった?」
そっと問えばあわてたようにあがる顔。
「そんなことっ、ない、ですっ!」
泣きそうになりながら必死で訴えてくる姿が余りにもかわいくて。
「なら、よかった。」
そっと伏木蔵をなでていた手を平太へと移す。
ふにゃり、そっと手に身を寄せて瞳を眇める。
「僕たちずっとみてたんです。」
伏木蔵があいているの手を取り言葉を紡ぐ。
「誰が、動き出してくれるのかなって。」
取った手をそのまま自分の頭に持っていく。
「誰が一番に思い出してくれるのかなって。」
そっと伏木蔵の頭の上に載せられた手。
まるでなでてほしいというように。
ぎゅうぎゅうと押しつけられる手をやわりと押さえてゆっくりとなでてやれば、ほっとしたようにおとなしくなって。
「だから、」
平太と伏木蔵がまっすぐにをみる。
「ありがとう、ございます・・・。」
その言葉に答えるように二人の頭をゆっくりとなで続けた。
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