ドリーム小説
記憶を辿って139 あんなに楽しかった日々のこと
「あ、れ?」
ようやっと顔の熱さが収まってきたころ。
ふいに声をあげたのは平太。
きょとりと首をかしげたのはしんべエ。
そして平太の視線の先を追って見つけたのは一つの姿。
記憶にだぶる、物を修理するのがとても上手だった人。
がそれが誰かと認識するよりもずっと早く、動き出したのは喜三太。
次いで平太にしんべエ。
思わず足を進めるかどうか、迷ったの体を止めたのはそこに残っていた伏木蔵で。
「行かないほうが、いいですよぅ」
にぱり、笑って見せるのに、その表情はどことなくこわばって見えて。
「留三郎先輩っ!!」
そうこうしているうちに一番に走っていっていた喜三太がその名前を叫ぶ。
それに反応するようにふりむいた彼は、目つきの悪い瞳を微かに眇めて首をかしげた。
それにびくりと止まって、小さく体を震わせたのは平太。
気にせず留三郎へと飛びつくしんべエ。
飛びつく一歩手前でへらり、困ったような表情をして見せた喜三太。
「留三郎先輩。」
今度はしんべエがその名を呼べど、目の前の彼は首をかしげるばかりで。
「あー・・・すまん。お前ら誰だっけ?」
ぴしり
空気にひびが入るような感覚。
その小さな体を抱きしめたくて、走り出そうとしたを止めるのはやっぱり伏木蔵で。
「大丈夫、ですよぅ」
伏木蔵の表情はこわばっていたけれど、それでもまっすぐに平太たちを見て笑って見せた。
「留三郎先輩、覚えてないんですか・・・?」
飛びついた状態のまま見上げたしんべエが不思議そうな声で問う。
それにぐらり、微かに傾いだ留三郎の体。
頭が痛むのか、頭を押さえてゆらり、揺れる。
「僕たちのこと、忘れちゃったんですか・・・?」
喜三太の小さな言葉にびくりと今度は留三郎が反応して。
「留三郎先輩」
小さく存在を確かめるかのように平太が呼んだ名前。
「お前らは、俺のことを知っているのか・・・?」
そっと留三郎からもたらされたそれに、こくこくと首がもげるのではないかと思うくらいの勢いで首を振る三人。
その拍子に平太の目じりにたまっていた雫がぼろりと零れた。
「っ、ちょ、頼むから泣かないでくれっ!!」
こっちがびっくりするくらい留三郎は慌てだす。
その釣り目の瞳がさらに釣り上って余計に表情が怖くなっている。
そんな彼に抱きつき言葉を紡ぎ続ける彼らはなかなかの勇者ではないだろうか。
「うう、先輩、僕たちのこともうどうでもいいんですかぁ・・・?」
平太に続くようにうるりと瞳を揺らす喜三太。
留三郎の顔が面白いくらいに青くなる。
「まてまてまて!!そのいい方はやめろ、なんか誤解が生まれる!!」
「あんなに楽しかった日々のこと、もうわすれちゃったんですね。」
しんべエがそっと留三郎から離れて目線を地面に向けてつぶやいた。
「わーーーー!!ちょっとまてまてまてっ!!!」
周りからのじろじろとした視線を一身に受け、留三郎の慌てぶりはピークに達する。
「っ、必ず思い出すから、少しだけ待っててくれ!!」
叫ぶように言い放たれたその言葉にへらり、笑い顔を見せた三つの影。
絶対ですよと叫ぶ一年生たちの姿に脱力する留三郎が見えた。
「ね、どうにかなった、でしょ?」
そっと掴まれていた服から離れた手。
みれば何処となくほっとした表情の伏木蔵。
そっとその手をとれば微かに湿っていて、どうやら彼自身も緊張していたようで。
以前誰かに拒否を示されたことでもあるのだろうか。
その手を握りなおして笑い返した。
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