ドリーム小説
記憶を辿って140 期待してもいいですか
あった瞬間、ぱちりって何かがはじけるように、記憶が溢れた。
真っ暗なところが好きだった。
落ち着ける場所。
安心できる場所。
僕だけの世界。
光のあるところが苦手だった。
僕の存在がここにあると感じることが。
きらきらしていてとても綺麗な光が。
光をあてられたらまるで消えちゃいそうで。
理由なんて特になくて。
ただ、漠然と僕に光は合わないんだって思っていた。
世界の色は、僕にはあまりにも眩しすぎて。
でも、本当はその光に憧れたりもしていて。
もちろん、それが僕に不釣り合いなことは理解していたけれど。
中学に入って、また変わり映えのない毎日が始まると思っていたのに。
始まったのは、懐かしい日々。
今この時代よりもずっとずっと必死になって生きていた。
ずっとずっと大事なものが多かった。
小さな箱庭で、人を殺す術を学んでいた。
そんな真っ暗な世界だったけど、でも、それは同時に希望でもあって。
とてもとても居心地のよかったその場所は
突然現れた光が、奪い去って。
平太が、あの頃と変わらないように泣くから
怪士丸が、あの時とおんなじように笑うから
孫治郎が、あの過去とかぶるように手を差し出すから
僕はもうこの手を離すために闇に落ちることはできないと悟った。
「 伏木蔵 」
そうやって、
あの頃みたいに、もう一度呼んでくれるんだって、幻想を抱いていた。
廊下で見つけた懐かしい姿。
嬉しくて嬉しくて、立ち止まってその人を待って。
ふにゃり、笑って見せたのに、名まえを、呼ぼうとしたのに。
かちり、
確かにあった視線は、そのままあっさりと外されて。
すれ違ったその背中に声をかけることもできなくて。
伊作先輩
呼ぼうとした名前は喉の奥に張り付いたまま、表に出てはくれなくて。
だから、もう、知っている人を見ても、自分からは話しかけないでおこうって。
そんなことを思っていたのに。
ゆっくりと集まりだしたは組。
あの頃と変わらない団結力。
遠くから見ていたけれど嬉しくて。
でも、どうしてなのか、不思議で。
そんなは組の中、ひとつだけ違和感。
一人の女生徒。
視たことのなかったと思っていたその人は、あの世界で幾度か医務室に姿を見せていた人で。
平太と一緒に歩いていた駅前。
その姿を見つけた時、話しかけずには居られなかったんだ。
驚いた瞳が印象的で、
柔らかな声が心を溶かして、
その笑みが、僕を落ち着かせてくれた。
小さなその体で精一杯年もそんなに変わらない僕等を守ろうとしてくれているのを感じて、どうしようもなくやるせないくらいに嬉しくて。
離れた手がさみしくてもう一度つかむ。
寄せたぬくもりがいとしくて。
ひょっこり現れたしんべエに、喜三太に気を取られる先輩を平太と目配せし合ってぐいと引っ張る。
そっと柔らかなその頬に自分の唇を感謝の気持ちと同時に押しつける。
真っ赤になった先輩が、すごくかわいくて、ほろり、笑みがこぼれた。
ねえ、先輩。
あなたを信じてもいいですか?
もう一度伊作先輩が、僕のことを呼んでくれるって、期待してもいいですか・・・?
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