ドリーム小説


記憶を辿って142 記憶の片鱗













汚れきったこの手は、いつも小さな手に癒されていた


穢れきったこの体は、いつもその存在に浄化されていた


淀みきった世界を、いつもあの子たちが色づけてくれていた


ささくれ立った心は、いつもあの子たちの笑顔に救われていた





柔らかく、庇護すべき存在たち。






その存在のためであれば、この手を汚すことすら正当のように思えていて____







ぱちり


目が覚める。

カーテンを閉め忘れた窓から見える外は晴れ。

登りきる前の太陽が柔らかく朝を告げる。



「・・・・、また、か。」



起きて感じるのは幸福感。

どんな夢を見ていたのかは覚えていない、

それでも、この記憶に残らない夢を、自分は幾度となく見ている。



そしてその夢を見るたびに、どうしようもなく、気分が落ち着くのだ。




何か、とても大事な何かに、触れていたような。




そんな感情。
















がさごそと学校へ行く準備をして、家を出る。

近所の小学生たちが楽しそうに走っている。


「っ、わ!!」

「お?」


そのうちの一人が前を見ていなくて、俺にぶつかってくる。

その小さな体を支えてやれば、慌てたように上がる子供の顔。


俺と目があった瞬間、泣きそうに歪む表情。


やっちまった。


思ったのはそんなこと。



子供は好きだ。

小さな子は、だがしかし、自分の見てくれを理解してもいる。



まあ、ようするに目つきが悪い上に愛想笑いが得意ではない

はっきりいって子供受けの悪い顔だ。


じわじわと滲む目の前の子どもの瞳。

困ったな、と思いながらも頻繁にあることなので対処方法もここえろ得ていて。

「次は気をつけろよ。」

さりげなく、子供をしっかりとたたせて、頭を軽く撫でて、そうしてなんにもなかったかのように歩き出す。

どうやらこの目がだめらしい。

この鋭い目つきが怖いらしい。


ということで目を合わせないことが必要なようだ。







子供は可愛い。

だがしかし、自分には遠い存在である。




そんな風に思っていたのに。













駅前を歩いていれば呼ばれた名前。


見ればそこには小さな子どもが三つ。


俺を見ながら、嬉しそうに、楽しそうに駆けてくる。




その姿を俺は知らない


その名前を俺は知らない


だというのに、




どうしようもなく溢れるこの嬉しいという感情はいったい何なのか。


必死で緩みそうになる表情を押さえれば、自分の表情がさらにきついことになるのだと理解してる。


そしてそんな表情をして見せた俺にも、目の前の三人は恐怖の顔かどうかべなくて。

それどころか、とてもとても嬉しそうに、笑う。



俺の名前を呼ぶ。



「あー・・・すまん。お前ら誰だっけ?」



わけのわからない感情に耐えきれなくなって俺を知っているのかと問えば、とたん、泣きそうになる三つの顔。



先ほどの笑顔を見ているから、余計に慌てて、必死でなだめる。




「留三郎先輩、覚えてないんですか・・・?」


体に縋りついたままの少しふっくらとした子が俺に問う。



「僕たちのこと、忘れちゃったんですか・・・?」


ふにゃり、眉を下げて、こちらがいたくなるような声で言う。



ずきり


微かに痛んだ頭をそのままに、目の前の子たちに向き合う。





「留三郎先輩」



何度も呼ばれた自分の名前が、なぜかとても、大事なもののように思えて。




「お前らは、俺のことを知っているのか・・・?」



微かな予感と期待と共に聞けば、こくこくと落ちそうなほどその頭を振る三人。


その拍子にぽろりと一番遠くから俺を見ていた子の瞳から滴が零れた




  な  か  せ  た
  




さああ、と自分の顔から血が引くのを感じて、気がつけば必死に彼らを泣きやませようと言葉を発していて。



「っ、ちょ、頼むから泣かないでくれっ!!」


必死な俺をうるりとした瞳で見上げてくる子たち。


「うう、先輩、僕たちのこともうどうでもいいんですかぁ・・・?」


ひそめられた眉が痛々しい。


「まてまてまて!!そのいい方はやめろ、なんか誤解が生まれる!!」


「あんなに楽しかった日々のこと、もうわすれちゃったんですね。」


まるで確信犯かのようにそっと相良される視線。


「わーーーー!!ちょっとまてまてまてっ!!!」


周りからのじろじろとした視線を一身に受け、俺の慌てぶりはピークに達する。





「っ、必ず思い出すから、少しだけ待っててくれ!!」












その言葉を発した瞬間、ふわり、笑う三つの顔



同時にぶわり、夢の片鱗が、生まれた気がした。



























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