ドリーム小説
記憶を辿って143 思うがままに動けばいい
「七松」
神妙な表情で私を呼んだのはこの世界では友人でもなんでもない、ただの同級生。
何度も何度も、毎日毎日みんなのところに通ってはいたが、その反応は全く持って思わしくなくて。
それどころか、ひどく冷たい目で見られて。
それでも、その小さな小さなつながりを切りたくなくて、嫌悪でもいい、私への感情を持ってほしくて、続けたそれ。
いつものように、名前を呼んで、バレーボールに誘って。
そうしていつものように断られて。
そんなはずだったのに。
七松
それは私の呼び名ではない。
思わず叫びそうになった。
名前を呼ばれることを、喜ばなければならないはずなのに、こちらに意識が向けられるようになった瞬間、次を、望んでしまう。
「・・・何だ?食満。」
にぱり、笑って見せて、名前を呼ぶ。
するとふらり、その鋭い視線が、さまよう。
「・・・おまえは、」
どくり、心臓がかすかに音を立てた。
期待してはいけないと思うのに、期待せずに入られない。
「俺を」
いつもの強気な姿勢はそこにはなくて、ただ、道に迷うただの少年の姿がそこにはあって。
「知っているのか?」
それは、いったい、何を指す?
ゆっくりと、静かに瞳を閉じて、開ける。
私を見る、その瞳を、まっすぐに見返して。
「食満留三郎。高校三年生、運動神経は良い。頭は馬鹿ではないが、成績はそこまでよくない。クラスの中では__」
「っ、そんなことじゃなくて、」
「じゃあ、どんなこと?」
私の言葉を遮って、違う何かを求める。
それは何?
留三郎、お前が望むことは何だ?
私の視線に、留三郎が息をのむ。
瞬時した瞳はしかし、少しの時間をかけて私を見つめる。
「昨日、駅前で俺の名前を呼ぶ小さな子たちに会ったんだ。」
白くなるほど、強く握りこまれた手。
「俺のことを留三郎先輩とよんでいて」
迷いながらも求める先にあるものに、期待する姿勢。
「俺を見て笑ったんだ。」
あの時のように、どうしようもなくうれしそうに笑う顔。
「お前は、そう呼ばれる俺を知っているのか?」
お前がのそれを望むならば、私はそれを手伝いたいんだ。
「ああ。知ってる。」
にぱり、笑って答える。
先ほどよりもずっとやさしい瞳で返事をする。
「それで、お前はどう思ったんだ?」
それに困ったように頬をかく。
「懐かしいような、どうしようもなく、抱きしめたくなるような、そんな気分になったんだ。」
ああ、変わっていない。
どうしようもなく、後輩を大事に思っていたお前そのものが、ここにいるんだ。
「ならば食満留三郎。お前が望むように動いてみればいい。」
そうすればきっと何かがつかめるから。
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