ドリーム小説


記憶を辿って144  近づく放課後
















『明日、仙蔵先輩も一緒にバイト先来てくれますか?』

『ん?構わないぞ。何かあるのか?』



『会わせたい、人たちがいるんです。』





昨夜、小平太とかわしたそんな電話。

他の人にもその話をしなければいけない。

できることなら、会って直接話したくて。



まだバイトに向かう放課後は遠い朝の1時間目。

だというのに、の心は不安でいっぱいだった。

ちらり、自分の席よりも前に座っている孫兵に目をやって、しばらくしては目線をそらす。

そんなことの繰り返し。

彼に話しかけなければと思うのだけれども、時間が進むのは遅くて。

どうしようもない焦れた感覚に一つ、小さくため息を吐いた。



「・・・何。」


授業終了のチャイムが鳴った瞬間、目の前に立つ彼。

むすりとした表情。

それでも整ったその顔立ち。


「う、あ、伊賀崎、君・・・」

自分から行かなければと思ってはいたのに、なぜか彼の方から声をかけてきてくれて。

少しどもる。

「・・・授業中、ずっと背中見てただろう。」

どうやらのぶしつけな視線は彼にずっと感じられていたみたいで。


「っ、今日の放課後、暇ですか!?」

勢い込んで叫ぶように体を乗り出せば、びっくりしたようにのけぞる孫兵。

ぎゅ、と手を握り締めて返事を待つようにその目を見る。

「・・・別に用事はないけど・・・?」

それがどうした?

怪訝そうな瞳がそこにあった。


「来てほしい、ところがあるの。」


ぐっと、ひどく早い音を立てる心臓を抑えるように胸元で手を握って、告げる。

その瞳の強さに負けたのか、ため息と共に孫兵は了承の返事を返した。













「っ、三郎先輩っ、勘右衛門先輩!!」





三時間目の終了後、移動教室で違う校舎に向かっている最中。

視界の端に映った紺色。


それを見つけた瞬間、は足をそちらに向けていて。

共にいた友人には先にいっていてと声をかけて走り出す。

がさり、渡り廊下を走っていてその先の中庭に見えたその影。

追いかけて中庭に飛び込んで、そうして見つけた目的の人物。



呼ばれた名前に反応してだろう。

一人はきょとりとしながら、もう一人は気だるげに振り向く。


「あれ?。」

「何か用か。」


走ったことで少し息切れているの近くまで来て、勘右衛門はぽすぽすとの髪をなでる。

面倒そうに三郎が用件を促して。


「今日の放課後、来ていただきたいところがあるのですが・・・。三郎先輩、勘右衛門先輩だけじゃなくて、兵助先輩たちにも・・・お時間ありますか?」


恐る恐る問いかけたそれに、ぱちくりと勘右衛門が目を瞬かせて、三郎はぐっ、と何か言いたそうに口を開く。



「それ、___」

「うん。大丈夫だよ。」

三郎の言葉はあっさりと勘右衛門に遮られての耳には届かない。

遮られたそれに文句を言おうとした三郎の口を掌でふさいでふわり、勘右衛門が笑う。


「大丈夫、皆で行くからね」



さあ、授業に遅れちゃうよ?


勘右衛門の柔らかな言葉に背中を押されは一つお辞儀を残してその場を後にした。



















「喜八郎先輩。」


最近は滝夜叉丸やタカ丸、三木エ門といった面々が思い出したから、喜八郎が来る頻度というのは減っていた。

それでもまだ、彼はのところにふらりと現れてはまるで猫のように触れ合いを求めてくる。


今日の昼休みもそれで、またそれはにとって好都合で。


「なあに、。」

背中に張り付いた彼はふわふわとその銀色の髪を柔らかくなびかせて、ことり、首をかしげる。


「今日の放課後、来てほしいところがあるんですが、来ていただけますか?」


「ん?・・・今日の放課後は仙蔵先輩と約束があるのだけれど。」


そっと背中から体を離してぐっとこちらを覗き込んでくる。

そのまっさらにも思える瞳が微かに陰る。

困った、という風に首をかしげて見せるけれど相も変わらずその表情はあまり困っているようには見えなくて。


「その仙蔵先輩も来ていただくようにいってありますから、大丈夫です。」


の言葉に今度は考えるように視線をさまよわせて、やがて一つうなずく。


「・・・じゃあ、滝たちも連れて行くね。」


そう言って、喜八郎は再びの背中に張り付いた。







そうして時間はゆっくりと放課後へと向かっていく

















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