ドリーム小説


記憶を辿って146   僕にとって怖いもの















僕にとって怖いもの。


小さいころから、たくさんあるの。





鋭いものが、鈍く光る切っ先が怖い



それに傷つけられることが怖いんじゃなくて、それに触れるのが、僕がそれを持つことが、とてつもなく怖い。



赤く染まる色が怖い。


皆が綺麗だというはずの夕焼けぞらすら、僕にとっては恐怖の対象で。

そんな時は決まって、室内にはいって、そうしてそれを見ないようにと怯えていた。



動物が、怖い。

柔らかな毛並みを持ったどんなに美しい犬も。

穏やかな表情を浮かべる人懐こそうな猫も。

純粋に、可愛いと思うことができなくて、



ただ、ひどい恐怖と罪悪感を感じる。



ごめんなさいと、あやまって逃げ出したくなる。





それから




視界を覆い尽くすような真っ暗な闇が。




僕にとって何よりも怖い。










ずっとずっと、そうやって怖い者から逃げて逃げて、生きていくものだと思っていたのに。


ずっとずっと、それらから逃げることなどできずに、生きていくものだと思っていたのに。




「孫治郎。」

「・・・何してるの?」

「ほら、すっごいすりる〜で、しょ?」




出会った時、はじめは恐怖。

怖い怖い。


ただそれを感じた。


優しく手を握られて、振り払おうとしたのに、その手は離れてくれなくて。


離してとかすれた声で叫んでも、やんわり、小さく微笑まれて。



「・・・鋭い物が怖いの?・・・大丈夫だよ孫治郎。これはね、もう人を傷つけるために使わなくてもいいんだ・・・。」

「赤いのが怖い、の・・・?・・・夕焼け、も・・・?なら、一緒に帰ろう。大丈夫、赤い色はもう、綺麗だと感じてもいいんだよ。」

「・・・暗闇が怖いのぉ〜?ん、じゃあ、ず〜っと一緒にいてあげるよ、僕等が。ほら、すっごいスリル〜でしょ?」










彼らは、僕の恐怖を、ひとつずつ、解消していってくれたんだ。









「今日帰りにね、いいところ、いかない?」


休み時間。

ぼんやりとはじめて会った時のことを思い出していればいつの間にか目の前に立っていた伏木蔵。

その後ろには平太がちょこりと顔を出していて。

「いい、ところ・・・?」

その言葉が何を指すのかわからずに聞き返せばにまりと深まる笑み。

「・・・怪士丸も行こう?」

伏木蔵の独断かと思えばそうでもないようで平太が怪士丸を見ながら言葉を紡ぐ。

「・・・うん。」

何処に行くのか、気にはなるけれど、それを知らなければ動けないほど臆病ではなくて。

行き先を任せてしまっても、全然怖くないくらいに信用していて。

だから怪士丸と顔を見合わせて小さく笑って頷いた。









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