ドリーム小説
記憶を辿って147 ご対面
放課後になり、向かうことになったバイト先。
二年生以上の子たちには場所を教えてあるから自分たちでこれるだろうが、一年生は少し不安で。
よって共に連れ立って歩いている。
の周りをころころと、小さな影は(といっても自身あまり大きくない上に一年生の中にはもうすでに身長が高い子もいたりするが。)動き回る。
「・・・いいん、ですか?僕たちも、いっちゃって・・・?」
おどおどとこちらをちらちらとみてくるのは元ろ組の子たち。
四人そろってみるのは初めてだが、成程、影堂先生の影響がよく出ていると言われていたのがよくわかる。
笑って頷けばふわり、柔らかな笑みを返してくれる子たち。
本当に可愛い子たちだ。
何気ない会話の中にひそむ、少しながらの緊張は、そうして彼らによって拡散していった。
からり、引き戸の扉が引かれて、ふわり、外の空気が室内に広がる。
「お、もう来てたのか、。いったい今日は___」
開いた先、にかりとした笑みを浮かべて入ってきた小平太が、こちらを見て、がちり、固まった。
「こ、へいた先輩・・・?」
ぽつり、その静寂を切り裂いたのは茫然とした金吾の声。
前もって知らせてはいても、信じられないのが現状のようで。
「っわ!?」
一瞬。
ぶわり、風が巻き起こったかと思えば、の横にいた金吾が声をあげた。
「っ、苦しいですっ、小平太先輩っ!!」
「金吾金吾金吾!!!」
ぎゅうぎゅうとまるで窒息させるくらいの勢いで小平太は金吾を抱きしめる。
それに悲鳴を上げる金吾だが、その表情はとても嬉しそうで。
「久しぶりだなあ!!元気だったか??」
「っ、とりあえず、離して、くださいっ、」
だがさすがに痛みが限界を超えたのか、声が必死さを増した。
しかしながらそんな金吾をまわりは柔らかく笑いながら見つけ目るだけで、だれも助けてくれそうにはない。
金吾の眼は完ぺきに涙目だ。
さすがにここは助けるべきかと声をかけようとしたら、くん、と小さく引かれた袖。
そちらを見ればにぱりと笑みを浮かべる兵太夫。
どうしたのかと声をかけようとすれば今度は強く引っ張られる。
「わわ。」
そのままその腕にすぽり、はまる。
驚いて身をよじるが、まったくもって離してくれなくて。
そのまま腕の中、くるりと方向を変えられて、向いた先には艶やかに笑む仙蔵の姿。
「兵太夫。えらく楽しそうじゃないか。」
「お久しぶりですね。立花先輩。」
仙蔵は楽しそうに笑ってはいるが、兵太夫の顔は残念ながら見えない。
「なんだ、はお気に入りか?」
くつくつと笑う様は、すごく楽しそうだ。
「ふふ、いいでしょう?先輩にはあげませんよ?」
どこかおかしい会話だと思うのはだけであろうか。
「ええと、兵太夫君、離してほしいかなあ?」
「、来るのは一年生だけか?」
いつまでたっても離れてくれるようすがないため声で促すがそれはあっさりと仙蔵によって遮られた。
「ええと、五年生と四年生と二年生。それから三年生の数人、です。」
しかたなく諦めて答える。
と、
「先輩〜僕も僕も!」
後ろから兵太夫に抱きしめられていたの前、突然に広がる制服の白とネクタイの水色。
「っ!?」
それが何か、認識するよりも先に体に走る衝撃。
後ろにのけぞりそうになりながらもそれは兵太夫のおかげで助かって。
「喜三太!突然飛びついたら先輩が怪我するじゃないか!」
慌てたような声は耳元で聞こえて、背中がぞわりとする。
まだ声変わりしきっていない音が、耳に直接来るから、顔が、赤くなる。
「ごめんなさい・・。」
しょもん、と落ち込む喜三太の頭に手をやって優しく撫でてやる。
「うん、次からは気をつけてね。」
それにふにゃり、笑みが帰ってきた。
「うわあ、おいしそう・・・!」
「しんべヱ落ち着いて・・・」
「うん、良心的な値段だけど自分で作ったらもっとやすいよなあ。」
壁に掛かったメニュー表に目を向けながら目を輝かせるしいんべヱをなだめる乱太郎。
その横でその値段をみながら考えるきり丸。
「ここにこれ仕掛けたら楽しいだろうなあ・・・団蔵が!」
「また僕をひっかけるのか!?」
「頼むからやめてくれ、三治郎・・・」
ほおっておいたら店が怖いことになりそうだね三治郎。そしてそれを焦ったように止める虎若。被害者団蔵。
「立花先輩。ここにいらっしゃったのがお二人ということは、他の六年生の方々は覚えていらっしゃらないんですね?」
「庄ちゃん、本当冷静ねえ。」
冷静云々の前に、兵太夫の腕の中からとりだしてほしいものだ。目の前で仙蔵に話しかける庄左衛門とそれにつっこむ伊助。
「うわぁ・・・すっごいスリル〜」
「伏木蔵それくらいにしといた方が・・・」
お店の中のもので何かしようとするろ組。場所の選択を間違えた気しかしない。
まったくもって助けてくれる気配を見せない自由奔放な子たちだ。
ちらり、上を見上げればふわり、いつもは見せない柔らかな笑み。
それはとても幸せそうで、泣きそうで。
喜三太と兵太夫に抱きつかれながらもぞもぞと体を動かして兵太夫の頭に手を伸ばす。
「先輩・・・?」
それにどうしたのかと見下ろしてきた兵太夫の頭に手を乗せて、ゆっくりと撫でてやる。
「嬉しいね、こうやってまたみんなで笑いあえて。」
それに一瞬虚を突かれたように動きを止めて、それから兵太夫は困ったように笑い返してくれた。
「先輩、僕も僕も!」
自分も、とねだってくる喜三太にも笑い返して、手を伸ばした。
「誰でもいいから、早く、助けて・・・!」
まじめに窒息しそうになっている金吾の言葉を遮るように開かれた扉。そこから現れた大小さまざまな青色たち。
「うわあ、たくさんいるねえ。」
「あ、立花先輩。」
「七松先輩もいらっしゃる。」
「こんにちは」
「・・・?うわわ!金吾!?」
口々に言葉を漏らす彼らの中、一人が金吾をみて慌てた声を上げる。
「小平太、先輩!!」
白いふわふわの髪を揺らしながら小平太に駆け寄って、金吾を離すように腕をたたく。
「四郎兵衛!久しぶりだなあ!!」
が、それは効果なく、四郎兵衛の体も小平太に捕まりホールドされる。
両側に小さなを二人抱きかかえるそれは、以前何度も見られたもので。
抱きしめられている二人には悪いがなごむ。
「小平太先輩。嬉しいのはわかりますが、そのままだと二人とも窒息しちゃいます。」
それにようやっと助け舟。だしたのは二年生と一緒に来ていた五年生の勘右衛門で。
にぱにぱと楽しそうに声をかける。
「ん?なんだ、尾浜お前もやってほしいのか?」
あっさり二人を離して、ばっと両腕を広げる。
そのまま勘右衛門に突撃するが、当の本人はするりと八左衛門の後ろに隠れて。
「え?ちょ、先輩、いたいいたいいたい!!!頭摩擦でこげますからぁっ!!」
被害者は八左衛門。
「なんだ?竹谷、恥ずかしいのか?遠慮する必要はないぞ!」
「そうじゃないですから!!!」
異様なまでのポジティブ変換。
そして被害に遭う原因となった勘右衛門はあっさり八左衛門を放置して。
「庄」
柔らかく笑って後輩の名前を呼ぶ。
それにきょとり、不思議そうな顔をした庄左衛門はとことこと勘右衛門に近づいていって。
ふわり、開かれた腕に包まれる。
「勘右衛門先輩・・・?」
ぎゅう、と包まれる感覚に戸惑いながら声をだせばくすくすと耳元で笑い声。
「嘘じゃないんだなあって、嬉しくて。」
「・・・僕も、嬉しいです。」
小さく返された返事と共にぎゅう、と小さな手が勘右衛門を抱きしめ返した。
「庄!」
庄左衛門が勘右衛門に抱きつかれていれば、まるで先ほどのように名前を呼ばれて。
そちらをみれば、両腕を広げて満面の笑みを浮かべる三郎の姿。
「来い!!」
「いいです。」
「即答っ!?」
先ほどの勘右衛門とは天と地ほどの差がある。
「間に合ってますから。」
にっこり、とどめとばかり庄が笑って述べれば三郎は店の隅へといじけてしゃがみこむ。
「先輩、日陰ぼっこですかあ?」
「・・・僕も。」
ろ組の子たちが慰めるためではなく、ただ自分の欲求を満たすためだけに近づいていっただけだった。
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