ドリーム小説
記憶を辿って150 早く叩き壊してと
本当はずっと怖いんだ。
いつ否定されるのかと。
いつ突き放されるのかと。
それを必死に隠して、黙して。
そうしてずっと待ってるんだ。
自分から踏み出せない一歩を、向こうから踏み出してくれるのを。
自分から破れない殻を、向こうからたたき壊してくれるのを。
思えばその日は朝からおかしかったように思う。
「おはよう!」
いつもであれば視線をちらりと向けて、また本に戻していたその目。
それが、いつもと違って少し考えるみたいに私を見ていて。
何か言いたそうに口を開きかけて、そして止まる。
「・・・ああ。」
小さくではあるが長次が初めて、私の挨拶に返事をくれたんだ。
それはとても小さなことのようで、それは私にとって大きな変化で。
閉じこもっていた自分がゆっくりと殻をやぶろうかと考え出したような。
どうしようもないくらい、嬉しいと感じていることなど、目の前の長次は知らないのだろう。
何もなかったみたいに本に目を戻して、ページをめくる。
なにかが、変わる気がした。
「中在家!バレーしよう!」
昼休み、どきどきと高鳴る鼓動。
緊張でこわばる顔に無理矢理笑顔を張り付けて。
朝あいさつを返してくれたから、ほんの少しだけ期待して、いつものように声をかけた。
「・・・」
「・・・」
まっすぐに、あのときと変わらない曇りないその瞳が私を射抜く。
ぐっと後ずさりそうになる体を叱咤して、はがれそうになる笑顔を保ち続けて。
「・・・ごめん、忙しかったよな!」
結局、怖くなって慌てて自分で言葉を畳みかけた。
そうして長次から離れようと足を踏み出した。
「七松、」
のに
「・・・いいぞ、どうせ、今日は暇だから。」
低い低い朗々と響く声。
小さいのに耳が利きなじむようにそれを拾う。
それに驚いて振り向けば、読んでいた本を片づけながら立ち上がる長次。
「・・・ほんとに?」
自分から話をふったのに、行程の返事に驚いて、思わず聞き返す。
「・・・嘘がいいのか?」
不満そうに言葉を紡ぐものだから、慌てて首を振った。
「嘘はだめだぞ!私は中在家と遊びたい!」
自分の感情を思うがまま大声で叫べば、うるさいとつぶやきながらも、柔らかい長次の表情に泣きそうになった。
ぴしり
自分でこもっていた殻がひび割れた音がした。
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