ドリーム小説


記憶を辿って152 受け入れればそれはなんてわけないこと










昨日、平滝夜叉丸という後輩に会ってから、思考がぐるぐる回る。

まっすぐな視線が、七松とかぶって。

たち振る舞いが、記憶をよぎって。

言葉の端々に、七松を思いやる気持ちが交えられていて。

それらの中に、俺に対する怒りにも似た感情が込められていて。


なぜ忘れている、と

なぜ思い出せない、と


責めるように、問いただすように。

でも、それに嫌な感情はもてなくて。


ただ、七松はこんなにも後輩に思われているのかと。


ぶわり、また知らない感情が沸き上がる。

知りたくないと思っていたその感情なのに、

その先を、知りたいと感じてしまった。


朝、教室で他にも友人がいるにも関わらず一番に俺に声をかけてくる七松。

ちらり、視線だけ向けていつもであれば手元にある本を見るけれど、その瞳をまっすぐに見返してみた。

するときょとり、不思議そうに首を傾げるものだから、まるで犬みたいだとか感じて。

「・・・ああ」

小さく返せば、息をのむ気配。

驚いたのだろう、どことなく照れくさくて、再び本に視線をやった。

ゆっくりと、今までであれば深いに感じていたその感覚。それが今はなぜか心地よかった。



「中在家!バレーしよう!」

昼休み、いつものように七松が駆けてきて嬉しそうに声をかけてきた。
どことなく、笑顔がこわばって見えるのは気のせいではないのだろう。
なんて返そうかと考えていれば、困ったように七松がそわそわしだして。

「・・・」

「・・・」

まっすぐにこちらを見るのをやめて、ふにゃり、泣きそうに笑った。

「・・・ごめん、忙しかったよな!」

「七松、」

俺から逃げるように踵を返すから、思わず名前を呼んで呼び止めていて。


「・・・いいぞ、どうせ、今日は暇だから。」

ぼそり、つぶやけば、小さな声だったにも関わらず、七松は聞き取れていたみたいで。

「・・・ほんとに?」

自分から聞いてきたくせに、こわごわと確認するみたいに声を出すものだから

「・・・嘘がいいのか?」

ゆるみそうになる頬を隠すように少しふてくされた表情をして見せて。

「嘘はだめだぞ!私は中在家と遊びたい!」

大声で、慌てたように叫ぶ姿が、

何かとかぶった


ぶわりぶわり


否定していた何かが、遠慮なくあふれ出す。




「中在家、トス!」


叫ばれて、体が、勝手に動いて。

ふわり、それが自分の役割だとばかりに、体が慣れたように動く。

この場所が一番楽な場所だったんだ。
あの鋭いスパイクを受ける可能性が低い上、味方でないと任せられないその場所。

また、この

ポジションに戻ってきた。


ぶわり

小平太がスパイクを打って、それが地面にえぐり込まれる。決まったことに顔いっぱいに笑みを浮かべて喜びを体全体で表して。


自分の中にいたのは知らない自分じゃない。

ただ、俺が忘れてしまっていた、大事な記憶だ。


そう気がついた瞬間、今まで全力で逃げていたその感覚が、俺の中で混じり会う。


初めてあったときの小平太のあの笑顔の意味

行動の理由

泣きついていた相手

求めていた言葉

忘れていた記憶

望んでいた関係



「中在家!ナイストス!」


「・・・小平太、お前もナイスアタック・・・」


それを聞いた瞬間の小平太の顔。

大きく目を見開いて、言葉をぱくぱくと動かして。

そうしてぼろり、大粒の涙をこぼして


「長次!」


太陽みたいに笑ったんだ。















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