ドリーム小説


記憶を辿って153     その名前は
















勉強をすることは、好きだ。

自分の知らなかったことを知ることは喜びである。

自分の知らない世界が広がることは嬉しいことである。



だから、今日も僕は始めてのことを知る。




小学生のころから、そうやって貪欲に知識を求めていたら、周りからいい子だとか、賢い子だとか、そう言うレッテルを貼られていて。

別にそれが不満なわけじゃないからそのままほおっておいたけれど。

さすがに母親にとんでもない進学校に行かされそうになった時は焦った。

しかも車で2時間の距離とか。

必死で抵抗して、そのまま家からもほど近いこの学園を勝ち取ることができたのだけれど、未だにあの母親は僕を進学校に行かせたくてたまらないのだ。




僕が好きな学ぶことを、強制的に行わされることは理解できない。


僕が望まぬことを、無理矢理に持たされることなど、やりたくなどない。



小さなころは知らなかったけれど、どうやら僕は我がままで自己中心的にも近い人間のようだ。



それを知ってからは、無駄によく回るこの頭を駆使してそれをばれないように包みながら生きているが。




そうして今日もまた母の手をかいくぐり学校へと向かった。









がらり

教室のドアを開く。

まだ朝早い時間のため、あまり人は多くない。

ちらりとこちらに視線を向けて、後、まだ自分の手元の参考書だったり本だったりに目線が戻る。




学年でも優秀な生徒が集まるこのクラス。

なかなかにプライドが高いものばかりで。

入学時に行ったテストで一番の成績をとっていた僕が、なしくずし、そのまま学級委員長に。

別にそれ自体は嫌ではない。

なんだかんだでこのポジションというのは使い勝手がいいものだから。



教室にかばんを置いて、図書室に返しておこうと思っていた本を取り出す。

朝早くはあるが、この学校の図書館は朝もあいているため、返却できるだろう。


本だけを手に、再び廊下を歩み出す。


音もなく、ただ静かに運んでいた足。

何の気なしに、窓の外に向けていた視線を、廊下の先にやる。

と、



「あ」


小さな声。

かちり、目があったそれは、どこかで見たことのあるもので。


「?」


誰だったけと考える。


「彦四郎」


小さく、本当に小さく呼ばれたそれは、僕の名前。

さまよわせていた視線を戻せば、まっすぐにこちらを見てくる彼の目。


ああ、確か同じく学級委員長だった気がする。


そんなことを思いはすれど、下の名前で呼ばれるほど親しくなったようなそんな覚えはない。

かちり、ひどく意志の強そうな瞳に、どこか感じたことのあるような感覚。


それは勝手に口を開かせていて。



「・・・なあ」


「・・・なんだ?」


淡々とした会話。

でもなぜかそれは落ち着いて。


「お前、僕のことを知っているのか?」

「・・・知ってるよ。」


今度は向こうが少し視線をさまよわせて、でも、しっかりとこちらを見て告げた。


「・・・いつから?」

「ずーっと昔から。」


「・・・そっか。」

「うん。」


「思い出すから、ちょっと待って。」


「わかった待ってる。頑張って。」


意味のわからない会話なのに、何故か、全然違和感を感じないこのテンポ。


思わず笑いが漏れそうになる。



たしか、そう、こいつの名前は・・・


「黒木庄左衛門」



「なんだ?今福彦四郎」







ああ、そういえば、確かにずっと昔から知っていたな。



その名前は。









※※※※
彦だけはあっさりだと決めていた。








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