ドリーム小説
記憶を辿って155 むかつくあいて
いらいらする
最近白昼夢のように浮かび上がる意味不明の映像も
突然僕に向けられるようになったクラスメイトの意味深な視線も。
そして何より、このつきまとう奴が。
「ねー伝七〜。」
朝も昼も、休み時間も、授業以外の自由な時間になぜかこいつは僕のところに来る。
はっきり言って僕はこいつを知らない。
記憶にない。
ぱっつんの前髪も、きりりとした切れ目も、整った顔立ちも、記憶にないったらないんだ!!
「そろそろ観念したらどう?」
だというのにこいつは僕に話しかけてくる。
知らないと無視をしていてもお構いなしに話しかけて来るものだから、こちらも無視しきれなくて。
「意味が分からない。」
視線をやっていた本から目を上げずに答えを投げ捨てる。
「まったく、本当に融通が利かないなあ。」
”本当に”まるでずっとずっと前から僕を知っているようなそんな言い方。
意味が分からない。
いらりとした感情をとどめきれなくなって、思わず本から目線を目の前の奴に移す。
「何がいいたいんだ!?毎日毎日つきまとってきて!」
感情の起伏そのままにはき捨てればなぜかにまりとした笑み。
「ようやく僕をみたよね。伝七。」
初めてあわせたはずのその瞳。
その強い鮮やかな色に、引き込まれそうになる自分がいることに、愕然とする。
「っ、放っておいてくれ!」
あわててその目から視線をはずして叫ぶ。
周りからかすかに集まる視線とか、気にならないくらいに目の前の奴に乱されているのがわかる。
一拍。
無言の時が訪れる。
突然のその空間に、違和感。
思わず再び目線をそちらにやろうとしてあわてて
とどまる。
すると小さく聞こえてきたのはため息。
あのねえ、そういって続けられる言葉の羅列。
それは今までのものよりもずっとずっとたちの悪いもので。
「僕も放っておきたいのはやまやまなんだよ?」
「でもね、僕だけの問題じゃないんだよねこれが。」
「僕としてはね」
がしり、さまよわせていた視線をこちらに向けるように、僕の顔がめのまえのやつにつかまれる。
「伝七。君がこのままであることになんら問題があるとは思っていない。」
先ほどまで楽しげに笑みを浮かべていたその顔はただ、感情を乗せることなくそこにあって。
ただその瞳だけが爛々と色を鮮やかにしていて。
「けどね、僕は約束してしまったんだ。」
だれと?
そんな疑問を口にできるほど、今の僕には余裕はなくて。
「先輩方との大事な約束を反故にできるほど、僕は落ちていないんだ。」
ぎちり
掴まれたままの顔。
連動している首が、ひどく痛む。
「せっかくの信頼を、おまえの所為でなくすことだけは嫌だからな。」
その瞳には大きく不満の感情が表されていて、僕はこのときようやく目の前の奴が、ちゃんとした意見を持った一人の人間であることを認識した。
「兵太夫」
ぎちぎちと音を立てるみたいに不安定だったその場所の空気がふわり、誰かの声によって払拭される。
ぱっ、と今まで遠慮なく掴んでいた僕の顔をはなして、目の前の奴はにぱりとした人好きのよい笑みを浮かべて振り返る。
自然と僕の視線もそちらに向かう。
ふわふわとした銀色の髪が方のあたりで柔らかくはねる。
かすかに伏せられた瞳はそのひとをはかなげにみせて。
ネクタイの色は紫。
それは高等部の先輩のものだ。
「喜八郎先輩!」
弾んだ声、それは先ほどと同一人物だとは思えなくて。
「兵太夫、伝七は?」
突如その先輩の口から僕の名前がでてどきりとする。
「今がんばってるところですよ。・・・僕のこと信用してくれてないんですか?」
む、とすねたような様子を見せるそいつに先輩は対して表情を変えることなく返事を返す。
「そんなことはないよ。」
先輩の手が目の前の奴の頭に乗せられて柔らかくなでられる。
どことなく、うらやましいとか感じそうになった自分に驚く。
「伝七。」
自分の思考をどこかに追いやろうとしていれば不亜旅呼ばれる名前。
びくりと身体を震わせて顔を上げれば目の前に先輩の姿。
柔らかく乗せられた手が僕をなでる。
「っ、」
びっくりして、思わず固まる。
それにかまうことなく、先輩はなで続けてきて。
「わ、」
それどころか頭をなでていた手がゆるり、背中にのばされて、ぐい、と引き寄せられる。
すぽり、あったかいそれにつつまれて、僕の死こう回路はストップした。
ぎゅうぎゅうされるそれ。
周りから聞こえる兵太夫の不満そうな声。
でも何よりも懐かしく感じるこの温もりにもうしばらく浸っていたかった。
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