ドリーム小説


記憶を辿って158 こんなところでも不運です。












「会えないんだ。」




その言葉を聞いた瞬間、ぽかん、と皆が皆口を開けていた。

そこは留三郎が下宿しているアパートの部屋。

集まっているのはその部屋の主である留三郎とその後輩二人。

彼と同じ学年の仙蔵、長次、小平太。

そして、であった。


「ん?どういうことか、よくわからないぞ?」


深く考えている様子も見せずに小平太がきょとり、首を傾げて問う。

その横の長次も不思議そうに瞬きをする。


「・・・留三郎、お前、同じクラスだろう?」

呆れたような声色の仙蔵。

そのひざに乗る二人の後輩をちらりと見てため息をついている。

「留三郎先輩、どういうことですかあ??」

間延びした声。

本日は彼の愛すべき蛞蝓さんたちはお留守番のようだ。

「善法寺先輩にどうして会えないんですか?」

まふまふと留三郎にもらったお饅頭を頬張りながらしんべエが首をかしげる。

「確かに、どういうことでしょうか。留三郎先輩。」

喉が渇いたとのたまった仙蔵のために留三郎の代わりに台所に立っていたが戻ってきて問いかける。

居心地が悪そうに留三郎は頭を掻く。


「確かに同じクラスだ。その、な・・・。だいたい授業始まってからぼろぼろで現れるし、休み時間になって話しかけようと思ったらなんだかもういないし。珍しく教室にいると思ったら先生方に用事押し付けられるし・・・」


その場の皆が皆、思ったであろう。

・・・ああ、不運、と。


「ほら、出席番号的には、そんなに遠くないんじゃ・・・?」

乾いた空気を払拭するためにが慌てて言葉を発せれば、そっと留三郎の目線がさまよった。


「見事なくらいに、一番前の列と最後の列だが、何か?」


もう、こちらも見事なまでの笑み。


皆の考えがまたもや重なった。



ああ、不運が移ってる。


「留三郎先輩、これもう一個食べてもいいですか?」


シーンとした気まずい空気を破ったのは先ほどまでおとなしくお饅頭を頬張っていたしんべエだ。


「ん?ああ、好きなだけ食べていいぞ。」

先ほどまでの苦笑とは違って、柔らかく微笑む留三郎。

それににこにこと笑い返しながら既にいくつ目かわからないお饅頭に手を伸ばしていた。


「・・・はあ。」


ため息をついたのは仙蔵。

目元に手をあてて疲れ切ったように言葉を紡ぐ。


「まさか、こんなところで伊作の不運が障害になるとは。」


それには皆が同感だろう。


「六年ではあと伊作と文次郎だけなのに・・・」

しょんもりと、いつもの元気はどこに行ったのか、項垂れる小平太。

それはまるで飼い主に怒られた大型犬のようだ。


「ならば、伊作は後回しにして、文次郎から攻略するか。」


「文次郎のことだからなあ・・・頭固いしなあ、あいつ。」


遠くを見る留三郎の眼は、なつかしむようで、慈しむようで。

それは柔らかな色を携えていて。


「んじゃ、私が次、もんじに会った時に話す!」


これまた先ほどまでのしょんもりは何処に行った。

今度は飼い主にご飯をもらった時のような大型犬。

その瞳はきらきらと期待に輝いていて。




それらの様子を見て、も笑った。








少しだけ、胸の端に宿った不安を隠すように。




















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