ドリーム小説
記憶を辿って16 さあ、始めよう
先輩と話して、そして決めた。
皆の記憶を思い出させると。
でも、どうすればいいのかわからなくて。
同じ教室に、いるのはいるけど、あいつらは明らかに記憶を持っていない。
だからこそ、声をかけるのもはばかられて。
入学してからこのかた。
どうやら俺は離さずにいたら怖いらしく、誰も寄ってこない。
まあ、そっちの方が気楽でよかったりするのだが。
授業中教師の話も聞かずにそんなことを考えていればいつのまにか授業は終わっていて。
「このクラスに摂津きり丸っているか?」
その声に心臓がどくりと音を立てた。
教室中の視線が俺に向く中、その声の持ち主へと顔を向ければ俺を知らないはずなのにまっすぐと俺を見ている瞳と会って。
ゆっくりと立ち上がってそいつの元へ向かう。
前髪メッシュの一見不良に見える彼だがそんなこともなくて。
俺は知っている。
こいつが外見に似合わず弱虫だということを。
「俺だけど。」
そう言って目の前に立てば何処となく眩しげに、懐かしげに眼を細めるから。
要らない期待をしてしまうじゃないか。
「俺のこと、知ってるか?」
どくん
涙が出そうだ。
知ることが怖くて。
お前なんか知らないと言われることが怖くて。
なんて、答えたらいいんだよ?
答えられなくてどうしようと迷っていたら、ふわり、柔らかな笑み。
それはあの頃と同じ笑み。
「摂津きり丸。俺は皆本金吾だ。どうやら俺は君のこと知ってるみたいなんだよな。」
ああ、知ってる。
金吾だ。
泣き虫で弱虫でその割に正義感が強くて
そして仲間思いの大事な俺の友人。
大事な俺の仲間。
共にあの時代を生きてきた、かけがえのない仲間。
「本当に金吾は相変わらずだよな。」
零れそうになる涙をこらえながらそう言った
「なあ!」
後ろから聞こえてきた大声。
それは予想もしないもので。
「なあ!摂津!皆本!俺もあんたらのこと知ってる気がする!!」
そんな言葉を聞いたら今度こそ本当に泣きそうになった。
そんな俺を見てか、金吾が慌てて俺と、それから団蔵を連れ出してくれたおかげで他の奴らに泣き顔を見られることはなかったけれど。
「お前なあ!あんなとこで叫ぶなよ!」
叫ぶ金吾の声がどこか遠くで聞こえて。
「悪い!けど二人の会話聞いてたら言わずにいれなくてさ!」
にかり、太陽みたいに笑う、それすらあの頃のまま
今度こそ溢れだした涙。
それを見てぎょっとしたような顔をした金吾。
そして、一度驚いてだけど、やっぱり懐かしい、太陽のような笑み。
「俺は加藤団蔵!よろしくな!きり丸、金吾!」
悔しいくらいに一直線。
その笑顔に幾度となく俺は救われてた。
その言葉を聞いた瞬間金吾が驚きに目を見開いて
そして、あの時と同じように泣きそうに優しく笑った。
「久しぶり、きり丸、団蔵。改めてよろしく。」
久しぶりに呼ばれた自分の名が、
この世界で生を受けてから初めて輝いて聞こえた。
「ばかやろっ、待ちくたびれただろうが!」
金吾は思い出したよ。
団蔵はなんか知ってる気がするよ〜
でもまだしっかりとは思いだしてないよ〜
という感じ
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