ドリーム小説


記憶を辿って160 こいつは何を知っている?













「七松!お前が俺に何を思い出させたいんだか知らねえけど、俺は別にそんなもの望んでねえ!
いい加減に俺に付きまとうのをやめろ!迷惑だ!過去だ前世だ?!
笑わせんじゃねえ!それじゃあ今の俺は何なんだ?
俺は今現在生きていることになんの後悔もしてねえ、俺の世界をひっかきまわすんじゃねえ!!」



はらわたが煮えくりかえるような熱い感情の中、告げた言葉。

そこにあったのは、泣きそうに顔をゆがめる一人の少年だった。








すべてがうっとうしいと感じていた。


毎回毎回、俺に話しかけてくる同学年が

毎日毎日、俺に鋭い視線を向けてくるクラスメイトが。


こんなにも平和ボケした世界に自分が生きているという事実が


授業もたいして楽しいと思わない。

難しいとも思わないそれらは、常に上位の成績を収める結果になっていたが、喜びも何もない。

クラスメイトの考え方についていけない。

付き合いが悪いと言われようが、俺はあいつらと慣れ合うためにこの場所にいるわけではないというのだ



かといって、何のためにこの場所にいるのかなど、知らないままであるが。




毎日同じことの繰り返しに飽きて、それでもまた再びあの夢の中の世界に引き込まれればこの世界にいることに安堵する自分もいて。


そんな矛盾ばかりの自分が嫌で嫌で。

それでもそんな自分を断ち切ることができないことにまたいら立って。




「潮江!!」



むしゃくしゃする気分の中、不意に呼ばれた名前。

毎日毎日大した用事じゃないというのに俺のそばに寄ってきては犬のようにじゃれついて、帰っていく。

謎の同級生。

好きか嫌いかの二択で問われれば間違いなく嫌いと答えられる位置にいる。


なれなれしい

意味がわからない

うっとうしい

喧しい


俺の好きではない人種だ。


だからこそ、今回も聞こえなかったふりをして立ち去ろうとしたのに。


「まって、潮江文次郎!!」

ぐっと、右腕が、掴まれる。

突然のそれに、頭が判断するよりも早く動いた体。

掴まれた手をそのままひねりあげるようにねじる、と、その手は慌てたようにするりと俺の腕から抜け出した。

まさか抜けだされるとは思わなかったため少し驚きながらそちらを見る。

そこには同じように驚いたようにきょとりとした表情を見せる奴。

だが、その一瞬後、とてもとても楽しそうに、にやりと口角をあげてみせて。


まるで獣のようなその瞳が、鋭い光を放って俺を射抜く


ぞくり


背中から湧き上がるような本能。

名をつけるならば闘争本能とよばれるそれは、俺の中に歓喜という名の高ぶりを生み出して。


体中に、指の先にまで行きわたるかのようなその感覚は、ただ一人、目の前の男に向けられる。



「・・・なあ、潮江文次郎」


今にもう本能のまま動き出しそうなその体。

それを止めたのは先ほどから目の前にいる男で。


「私を、覚えているだろう?」


疑問文のはずのそれは、しかし断定の含みが交る。

鋭く向けられる視線は、俺以上の悦びを。


「あ”?ただの同級生だろうが。七松。」


放たれた言葉の意味が理解できずに返せば、微かによる眉。


「そうじゃない。私を、ずっとずっと昔から、知っているだろう?」



いったいこいつは何を言っているのだ?

先ほどまで湧き上がっていた本能は、意味のわからないそれらにあっけなく拡散して。


「相変わらず、意味がわからない。」


吐き捨てるようにつぶやけば、七松の瞳が、瞬時、恐れるように瞬く。


だがしかし、一瞬後にはぐっ、と何かを秘めるように固められる瞳。



「・・・私は七松小平太だ。」

突然始まった自己紹介。

さらに意味のわからなくなった七松に呆れた視線を向けるが、返される瞳はひどくつよい。


「元、忍術学園6年は組。体育委員会委員長を務め、お前とは同級生で、大事な大事な仲間だった。」


続けられた言葉に、頭がショートしそうになった。



「前世で、あの世界で、あの過去で、私たちは、共に生きてたじゃないか!」


こいつは、いったい何を、言っている?

忍術学園?

体育委員長?

俺と、同級生で、仲間、だと・・・?


前世だと?

過去だと?


あの世界、だと?



「なあ、思い出せよ、文次郎。」



湧き上がったのは、言い知れぬ恐怖



こいつは、俺が、夢の中で行っていたことを、知っている。


こいつは、俺が、この手で何をしてきたのかを、知っている。



「文次郎」


再び呼ばれた名前、あまりにも親しげなそれに、今までの恐怖は一挙に怒りへと鞍替えした。








「ふっ、ざけるな・・・!!!」









ぶわり

ぶわり


何を意味のわからないことを。

俺はお前が何なのか知らないし

俺は自分のあれがなんなのかも知らない。


だというのに、なぜお前が俺を知ったような口をきく!?






「七松!お前が俺に何を思い出させたいんだか知らねえけど、俺は別にそんなもの望んでねえ!
いい加減に俺に付きまとうのをやめろ!迷惑だ!過去だ前世だ?!
笑わせんじゃねえ!それじゃあ今の俺は何なんだ?
俺は今現在生きていることになんの後悔もしてねえ、俺の世界をひっかきまわすんじゃねえ!!」






無理矢理つかんだ胸ぐら。

揺れる瞳を突き離すように手を払って。

その場から逃げるように踵を返す。



あふれ出たその言葉がいったい誰に向けられたものなのか。


それは、俺にだってわからなくて。




ただ、ひどく泣きそうなそいつの顔だけが、記憶に残った。
































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