ドリーム小説


記憶を辿って163   どうせなら僕の手で泣かせたい

















「これほどまでに、あ奴が腐抜けたやつだとは思わなかった。」



にっこり、それはそれは艶やかな笑みを浮かべた仙蔵先輩は、とてもとても恐ろしい気配を立ち上らせながらそう言った。







久しぶりの作法委員会メンバー。

残念ながら藤内先輩と伝七は所用でいないがそれでも仙蔵先輩と喜八郎先輩と、まったりのんびり、教室で近況報告という名のお茶会をしていた。

そのさなか、突然開かれた教室の扉。

何事かとそちらに視線を向ければ、顔面を真っ赤にして、瞳に雫をためた七松先輩がそこにいて。


「仙ちゃあああんん!!!」

七松先輩は、その勢いのまま仙蔵先輩へと飛びついていく。

まあ、先輩はあっさりとそれを避けたわけだけど。


「なんだ、小平太。」


手慣れた対応はつまり、これがいつものことであると示していて。


「っ、文次郎があぁぁっ・・・!!」


ぶわり、今までためられていた涙が、ぼろぼろとあっけなく溢れだす。

それに僕は少しだけ驚いて、でも喜八郎先輩は、我関せずを決め込んでもそもそとまだお茶菓子を食している。


「あの馬鹿がどうした?」


仙蔵先輩の声には若干の呆れ。

それでも、視線はまっすぐに七松先輩に向けられていて。


「いらないことを、するなっ、てっ、」


ぎゅう、とその言葉がさらに身にしみたかのように縮こまる先輩。


「そうか・・・」


そんな七松先輩に優しく触れて、頭をなでてあげている。

ちなみにその横では、いつの間に移動したのか、喜八郎先輩が七松先輩の背中をなでている。


「・・・七松先輩、に会いました?」


と、突然それまでの流れを遮るように、喜八郎先輩が言葉を発する。

それにこちらもまた、今まで流していた涙のことなど忘れたかのようにきょとりとする七松先輩。

「・・・うん。」

それでもその視線が微かにそらされるのはなぜだろうか。

流された視線はぴたり、僕のものとがっちした。

「・・・七松先輩、先輩になんにもしてないですよね?」

まさかと思いながらもにっこりと笑いながら問えば、ふらり、そらされた。

「・・・小平太?」

仙蔵先輩の静かな声に、びくり、七松先輩は体を揺らして。


「っ、だって、あんな時に会うからっ___」




 は悪くないってわかってたのに、ひどい言葉を言っちゃった





その言葉を聞いた瞬間、体が勝手に動き出した。


探して探して

僕の中に眠りついてる過去の僕を総動員。

気配を辿って、勘を頼りに走る走る。


じわり、感じたそれは、とても空虚で、ぞくりと、した。

「・・・屋上。」

僕よりも足が速い先輩たちが先導するように走って。

それを必死に追いかけて。


向かう先、屋上からの階段を下りていく潮江先輩の姿が目に入った。


それに構うことで時間を無駄にしたくはないからそれをほおっておいて、向かった先。


空を見上げて、ぽろぽろと一つ二つ、涙をこぼすその姿。

柄にもなく、綺麗、とか感じた。


ただ、それが、僕ではなくて僕以外の人によってもたらされたものだと思うと、少しばかり癇に障ったけれど。






泣き疲れて眠るその体を喜八郎先輩から受け取って。

ひとまず向かった保健室。

「さて、どのようにしようか。」

柔らかなシーツに横たえて、先輩方が話しているのを聞く。

そっと顔にかかった黒髪を払ってやれば、少し身じろぐ。

「・・・ん、」

微かにもらされた吐息に、どくりと心臓が音を立てた。

身じろいだ拍子に、ぽたりとその目じりにたまっていた涙がこぼれて、より一層先輩を鮮やかに彩る。

どくりどくり

先輩方がいるのはわかっているのだけれど思わず、手が、伸びそうになる。

その表情を、僕のせいで泣き顔に変えてみたい。

僕のせいで歪む先輩を見てみたい。

どくりと心臓がなる。


「兵太夫」

ゆっくりと、伸びていた手。

それがやんわりと止められる。

僕の手を止めたそれを辿っていけば、紫。

喜八郎先輩が、まっすぐに僕を見ていて。


「駄目、だよ。こういうことは、本人が起きている時じゃないと、だめ。」


言葉を、はっきりと述べられたわけじゃないけど、意味は伝わってきて。


「ごめんなさい」


何をしそうだったのか、自分でもわからないそれを持てあますように謝れば、ふわり、頭に乗る手。

「いい子だ、兵太夫。」

あの二人がかかわらなければ気高く艶やかな仙蔵先輩は、珍しくも優しく微笑んでいた。

「まあ、をいじめたくなる気持ちはとてつもなくわかるがな。」

前言撤回。

えらくいい笑顔だった。



「明日、あの馬鹿に思い出させてやろう。」



それでも告げられたそれに、こくり、一つうなずき返した。

























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